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第8回 ショッパー、小売業、メーカー企業の「三方よし」を実現する売場づくり提案とは

多くのメーカー企業では、自社製品の開発や販売促進を企画する際にコンシューマーやショッパーのインサイトを追求し、自社製品が売場やオンラインショップで選ばれて購入につながるための仕組みづくりをめざしている。そのために顧客の購買データやアンケート調査からインサイトを見つけるためのヒントや兆候を探し、カスタマージャーニーの作成やワークショップの展開により、顧客の買い物行動や意思決定のタイミングを「見える化」するといった数多くの作業を行っている。しかし、そうして見つけたインサイトによる切り口やテーマが、必ずしも売場で製品の訴求や展開につながっているわけではない。そこにはメーカー企業が企画の提案を行う小売業の担当者のインサイトがある。小売業の担当者のインサイトはメーカー企業にとって時には「壁」なり、一方ではインサイトから導いたテーマを展開する際の「エンジン」にもなる。そうした小売業とメーカー企業の担当者の異なるインサイトを合致させて、効果を上げる具体的な方法についても掘り下げて紹介したい。

小売業の売上を増加に導く構造を理解する

 小売業のバイヤーや販売促進の担当者のインサイトに触れる前に、小売業のマーケティング活動の目標と、その構成について整理しておきたい。

 小売業のマーケティング活動の最終目標は売上を上げて利益を生むことにある。その体系が図1である。折り込みチラシやインストアプロモーション、近年注目されるデジタルツールの活用も、全て売上を増加させることを目的に行われている。この図1は流通経済研究所が作成をしたものに筆者が加筆したものだが、店舗の売上が不振の際などに、その課題がどこにあるのかを考えるために利用している。単に「売上がよくない」と言ったあいまいな評価ではなく、POSデータをはじめ売上データと図1を照らし合わせて、具体的な課題を捉えるようにしている。こうしたことを繰り返していくと、お店や売場で行われている施策を見れば、解決したい課題が理解できる。

 小売業(お店)が売上増加を考えている場合、図1からもわかるように以下の点がポイントになる。

  1. 客単価の増加または客数増加のいずれかを図るか、または両方かを考える。
  2. 客単価の増加であれば、商品単価の増加か買上個数の増加かを考える。
  3. 食品や日用品の購買決定は75%が売場で行われる(=非計画購買)。
  4. 非計画購買個数を増加させるには同時購買商品の増加や購買頻度を高める取り組みがある。
  5. 客数の増加を考える際は既存客と新規客とを分けて考える。
図1

 そして小売業が売上の増加を目標にする場合の「商品」の捉え方は、ブランドや特定銘柄ではなく商品はAでもBでもCでも構わないと言う発想になる。この視点は、メーカー企業の小売業に対する取り組みや商談の目的とは全く一致しない。メーカー企業の立場からは、商品の回転率の高い棚を獲得して、買い物客に自社のブランドを選んでもらうことだ。このままでは両社の狙いは一致せず、ともに満足のいくような効果的な展開は行えない。

小売業のバイヤー、販促担当者の役割、インサイトを理解する

 ここ最近の小売業のバイヤーや販売促進の担当者の役割、彼らのインサイトはどうなっているのか。そして、そこにアプローチを仕掛けるメーカー企業の営業マンは日々、どのような活動を行っているのか。

 まず、バイヤーの主な役割をあげれば、以下のようになる。

 バイヤーの目標は担当部門の売上を上げることだが、このように多岐に渡る業務を他の部門と調整をしながら進めていくのに負担を感じることも少なくない。そのため、他部門や専門外の領域への関心は高まりにくい環境がある。

 したがって、バイヤーのインサイトとしては、「毎日対応する業務が多く、良い商品の発掘や商品の開発に手が回らない、他の部門との連携も大事なことと分かっているが、どうしても後回しになるし面倒だ」といったものになる。

 そこで、多忙なバイヤーに向き合うメーカー企業の営業マンは、自社のブランドのポイントや取引の条件提示をできるだけ分かり易く伝えるための資料や方法を用意する必要がある。例えばお店の商圏分析をして顧客データを提供し、世の中の流行、話題の商品や生活者のニーズなどを資料にまとめ、その上で自社のブランドのセールスポイントを訴求する。

小売業の販売促進の担当者にもさまざまな役割とインサイトがある。

 販売促進担当者の主な役割は、以下のようになる。

 販売促進の担当者のインサイトは、
「バイヤー同様に複数の部門や外部との打ち合わせや調整がある。また、自社の取り扱う商品やサービスなどに広く目を配り、売上や集客につながる施策の企画や実行が求められる。バイヤーとの違いは、責任部門の捉え方(バイヤーは自分の部門、販売促進は全体)と、お客への直接的な購買の動機付けを考え実行する点にあるまた、バイヤーをはじめ他の部門から協力を得て進める作業に困難を感じることがある」というようにまとめることができる。

 こうした状況にあるため、メーカー企業の営業マンは、バイヤーの理解を得た後、販売促進の担当者を交えての商談を高い「壁」と感じることがある。

小売業とメーカー企業、立場の異なるインサイトから接点をつくる

 小売業の担当者もメーカー企業の担当者も、それぞれの立場が異なれば求めるものも違う。

 この異なるベクトルを一致させて双方の効果を高めるためには3つの方法が有効だ。

  1. 併売値やリフト値の活用。
  2. ショッパーのインサイトによるテーマづくり。
  3. 生活歳時に目を向ける。

 対象となる商品や売場の状況に合わせて、小売業とメーカー企業それぞれの目標にこれらが合致するように進めることがポイントになる。

 例えば①併売値やリフト値の活用については、バイヤーの売りたい商品の販売をメーカー企業が自社のブランドや販促の施策によって押し上げる方法がある。具体的にはプライベートブランド(PB)商品をはじめ小売業がもっとも利益を得られる商品を、メーカー企業のブランド商品と一緒に訴求できるメニュー提案を行ったり、相互の需要を高めるテーマを提案するといったものだ。この場合、小売業の商品はPB商品に限らず、「その時期に最も売りたい商品」となる。写真1のPOPはメーカー企業の負担で用意したものと思われるが、小売業がこの季節に売りたい商品(おでん種)と一緒に訴求することで、お酒の売場でのPOPの設置を可能にしている。メーカー企業によっては商品が買い物客の目に留まりやすい場所に陳列される条件であれば、POPに自社の製品写真を掲載せずに商品を紹介するコピーだけを表記するケースも見られる。

 ②のショッパーのインサイトによる販促テーマづくりは、この連載でも何度か事例を取り上げて来た。小売業とメーカー企業の担当者のインサイトがお互いの目標だけを追いかけることになってしまう場合、その間に買い物客であるショッパーのインサイトを置くことで、販促の取り組む方向を一致させることができる。

 母の日の事例として本連載第6回に紹介した「ブーケサラダ」はその好例だ。今までと違うメニューを切り口に客単価を上げたいという小売業の要望と、母の日のような生活歳時で商品の売上を高めたいドレッシングを取り扱うメーカー企業の要望を結びつけるものとして、ショッパーである母親層に「火を使わず子どもと一緒に作れて、美容にも良いブーケサラダ」を提案した。このようにショッパーのインサイトで、小売業とメーカー企業のインサイトをつなぐ展開は、ショッパーと小売業とメーカー企業の「三方よし」の結果を生むことになる。

 最後に③生活歳時に目を向ける方法についてだが、生活歳時をテーマにした売場づくりは小売業にとって「ハレ」の企画になる。しかし、小売業のバイヤーや販売促進担当者のインサイトは常に新しい切り口や展開を求めており、毎年同じように行われる企画では新鮮味に欠ける。また、生活歳時向けの企画は、販促費などの費用効果を考えると「〇〇の日」当日や直前の短い展開期間では割に合わない現実がある。そこで写真2のような「展開期間」を長くとれるような企画を考えてみることも必要だ。

 6月の第三日曜日の「父の日」に向けて、「もうすぐ父の日今月は家飲み満喫月間」と打ち出すことで、関連商品を訴求する期間を拡げることができた。また、現在のようなコロナ禍であれば、買い物の集中を避ける意味からも6月の1ヶ月間を「父の月」として売場展開する考え方もできる。

 近年ではメーカー企業の小売業への提案も、自社のブランドや製品の紹介だけでは店頭化に結びつきにくく、商談のアポイントを取ることさえ容易ではなくなって来た。そうした時代の中で、メーカー企業が確実に実績を作っていくためには、小売業やショッパーのインサイトを理解した上で、それぞれが同じベクトルをもてるようにすることがこれからのポイントになるだろう。