イオンの入社式で岡田元也社長が話したこと2015
4月1日(水)。イオン(千葉県/岡田元也社長)は、国内グループ企業59社、約2200人の入社式「Meet The New AEON People 2015(イオン入社歓迎の集い)」を開催した(@幕張メッセ)。岡田元也社長は今年は何を話したのか? 私の感覚で過去の入社式あいさつとの比較で言えば、ビジネス論よりも精神論が多かったような気がする。以下に記したい。(談:文責・千田直哉)
入社おめでとう。
若い皆さんのこれからの活躍に大いに期待します。
今日は国内59社の約2200人の新しいイオンピープル(AEON People)を迎えることができた。
実は新しいイオンピープルは皆さんだけではない。日本の入社式は4月だが、新年度の始まりの違いによって中国とアジアではすでに1400人余りの新入社員が入社している
つまり全世界では約3600人の若いイオンピープルが誕生したことになる。本当にうれしく思う。
皆さんは、イオングループの中では、それぞれが異なる企業に所属することになる。
しかし、皆さんはイオンというひとつのグループの一員であることを肝に銘じてほしい。
先日、新たにイオングループに加わったベトナムのフィビマート(FIVIMART)の方から「We are AEON(私たちはイオンである)」と言われた。「そのことは喜びであり、誇りである」と続けられ、とてもうれしかった。
その言葉通り、「We are AEON」であり、われわれは「ONE AEON(ひとつのイオン)」である。
ここにいる皆さんもそれぞれ違う企業に所属し、違う業務に当たるわけだが、「ONE AEON」であることを心に刻んでもらいたい。
イオンは3月1日から新年度に入ったばかりだ。2015年2月期の業績の詳しい数字は現在集計中であり、今日は漠としか出せない。
イオンの連結売上高は7兆円を突破する。2014年2月期の売上高は約6兆4000億円。そして皆さんに今日から加わってもらい、2016年2月期末には8兆円を超える。
これは、食品スーパーのマルエツ(東京都/上田真社長)やカスミ(茨城県/藤田元宏社長)やドラッグストアのウエルシアホールディングス(東京都/水野秀晴社長)など過去1年間に多くの企業がイオングループの仲間入りをしてくれたからだ。
8兆円――。日本では最大の小売業集団となる。
皆さんをはじめとする42万人の従業員がひとつにまとまらなければ、本当の力を発揮し、お客さまに喜んでもらうことはできない。
だからこそ皆さんにはひとつになってもらいたい。
このような大規模の企業ではあるが、イオンはひとつひとつの企業は小さくあって欲しいと考えている。
ただ大きいだけではお客さまに満足していただくことはできないからだ。
むしろそれぞれが小さく、生き生きとして、スピードをもってお客さまの変化にもついていけるような企業。それが、たくさん集まってひとつになることをイメージしてほしい。
そしてその小さな企業や組織の中で最も重要なことは、皆さん1人1人。すなわち、個人の力だ。
強い個人、優れた個人、本当にお客さまのことを考える個人が42万人もいれば、大変な力になる。
そういう人に1人でも多くいてほしい。
そのために大事なことは、皆さんの独立心だ。
「人に指示されたから」「ほかの人もやっているから」では全然ダメであり、自分で考え、自分でどうするのかを考え、改善案を出し、よいと信念があるのであれば自分1人でも実行していく。
そのように個としての力を発揮してもらえることが、イオングループとしては最もありがたいことである。
そのためにイオングループは、これまで多くの企業を抱えながら、多様性を尊重してきた。多様性というのは、それぞれが単純に違うというだけではなくて、それぞれが素晴らしいから多様性なのである。
ダイバーシティ(多様性)は、イオンが古くから追求してきた価値観だ。
だからイオンは、学歴や宗教、国家、性別や年齢による区別や差別をしてきたことはない。
たとえば皆さんが「どの学校を出たのか?」ということは、今後、一切重要ではない。
おそらく誰も知らないと思う。
社会的なハンディキャッパーにも真正面から向き合って活躍してもらっている。
結婚しても子供ができても、十分に力を発揮して、ずっと働いてもらうためにあらゆる努力をしている。
イオンは、実店舗による小売業だけではない。サービスや金融、デベロッパー、などいろいろなビジネスがあるわけだが、相互に有機的に連動している。
そして皆さんは今日からそれぞれのビジネスや業務に就くわけだが、どうか商人であることを忘れないでほしい。
お客さまのためにひたすら考え抜く、商人になってもらいたい。
商人は、お客さまのために存在し、お客さまの権利を守り、お客さまがより満足をし、その結果、より幸せを感じてもらえる。
そのために必要なことや求められることを躊躇なく行っていかなければいけない。
商人として非常に重要な条件を一つだけ挙げるなら正直なことである。
正直さがなければお客さまから信頼を得ることは到底できない。
そのことだけは覚えておいてもらいたい。
さて、イオンは小売業を次のように考える。
小売業とは、お客さまの変化に遅れることなく、あるいは先んじて、われわれ商人がどんどんと変わっていくもの。
実際にお客さまの求めるものやお客さま自身がすごいスピードでどんどん変わっていく。
われわれは何よりも変革を志し、果敢に挑戦する集団でなければいけない。
イオンは、小売業とは、地域産業であり、人間産業であり、平和産業であると考える。
地域産業とは、地域の重要性、地域の文化、地域の歴史を踏まえて、地域の人々にとってなくてはならない企業のことである。
そして地域の人に求められる、地域の人に尊敬されるような、そうした地域に根差した企業になっていく。
人間産業とは、小売業は単に人を介して商行為が行うという意味ではない。人間の持つ無限の力や可能性を大事にする企業であるということだ。それは皆さんのことである。
この力を信じることを人間産業と言っている。
人間の持つ力や可能性を我々は心から信じ、敬意を払っている。
人が人であるためには独立心や競争心が必要である。同時に他人への敬意が必要だ。
他人を尊重し、信頼すること。そしてお互いに理解しあうこと。
そういったことを我々は重視し、それが小売業だと考えている。
もちろん、組織論や経営技術、ITの力も大切だ。しかし、それらは皆さんの人としての力を最大限に引き出してくれるための道具に過ぎないということを忘れないでもらいたい。
平和産業は、第二次世界大戦の終戦後の岡田卓也現名誉会長エピソードからきている。
イオンの前身企業のひとつである岡田屋は、終戦日から7か月後に焼失した店を再建し、売り出しのチラシを出した。そのチラシを見てくれたお客さまが、チラシを持って店に来られて、「日本が敗戦して終戦を迎えたことはわかっていたけれども、あの毎日爆撃を受ける怖い戦争が終わったという実感がなかった。ところが懐かしい店のチラシを久々に見て、初めて本当に戦争が終わったのだと心から実感した」と言ったのだという。
小売業が繁栄すれば平和と認識され、平和であれば小売業は繁栄する。古今東西、昔から言われていることだ。
逆に平和ではない場所で商業が発展することはない。商業が発展していない場所は平和ではない。
相互交流や相互理解、楽しい生活、充実した生活…。平和でなければ手に入ることではない。
これらをそれぞれのお客さまに提供できるのが小売業だ。
だからこそ、イオンは平和を重視している。
このことはイオンが行っている社会貢献活動にも明確に表れている。
イオンは、「人間」「地域」「平和」を重視した社会貢献活動を30年前から実施している。
イオンは、どうして植樹活動をするのか?
第一の目的は地球の環境保護のためである。
しかしながら、本質は、みんなのため、子孫のためである。
悪化する自然環境の中で心の平和に至れるか? 質の高い生活が送れるか?
万が一、自分たちは、そうしたものにありつけたとしても、次の世代は難しい。
それからイオンは、ラオスやカンボジアなどで学校建設を行っている。
これは子供たちの幸せのためだ。十分な教育が受けられないと子供たちは幸せになれない。そういう子供たちが育てられなければ、世界に平和は訪れない。
だからイオンは出店している地域で学校をたくさんつくっている。
また、どうして「セーフウォーター活動」を行っているのかと言えば、学校をつくっても水がないために水汲みに1日の時間の大半を取られてしまう子供たちに学校に来てもらうためだ。
それから高校生には「ティーンエイジアンバサダー」という交換活動を行っている。
たとえばベトナムの高校生に日本にホームステイしてもらい、今度はその家庭の高校生がベトナムに行く。日中間でも実施している。
高校生の家庭同士が良い友人になるとともにお互いを憎むことはない。それは将来の平和に役立つはずと信じてイオンは「ティーンエイジアンバサダー」を実施している。
さらに大学生には、奨学金を出している。
これらはすべて若い人たちに対する期待だ。若い人たちが教育を十分受けられることによって、必ずその地域のためにも全体のためにも役に立ってくれるだろうし、平和のためにも役に立ってくれるだろう。
そのことを信じてイオンは社会貢献活動を行っている。
みなさんにも積極的に参加してもらい、自分で考えるきっかけにしてほしい。
これから皆さんが活躍してくれることによって、さらに企業規模を拡大させるとともに、本当にアジアで一番信頼され、支持される企業集団になってもらいたい。
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