食品スーパーマーケット混沌(上)
アークス(北海道)の横山清社長が指摘するように日本の食品小売市場は混沌の度合いを時々刻々と深めている。
食品小売市場のメーンプレイヤーは、なんといっても食品スーパーマーケット(SM)だ。家庭内料理の素材や総菜を提供することで市場での存在感を示し、マーケットリーダーとして君臨、市場の成長を牽引してきた。2007年の商業統計によれば、その市場規模は対2004年度比横ばいの17兆1062億円である。
ところが、このところ多くのSM企業は元気がない。既存店舗売上高は対前年比を下回る傾向が定着しており、2014年2月期、3月期の中間決算においても突出した企業はいくつもなかった。
理由としては、いくつかを挙げることができる。
ひとつには、少子高齢化と人口減少である。2005年ごろを境に、日本では死亡者数が出生者数を上回り、総人口数は下落の一途をたどっている。しかも、平均年齢は上がるばかりであり、食べ盛りの子供や若者は減る一方、高齢者が増えている。日本国民の胃袋の総数はもちろん、総容量も減っているのである。
もうひとつは、同業同士の競合激化である。マーケットは縮小しているにもかかわらず、SM企業各社の出店意欲は依然旺盛だ。日本リテイリングセンター(東京都)によれば、通常、2万~3万人の人口が必要と言われるSM1店舗あたりの人口は1万人を切るようになっている。
さらには、異業種からの参入である。GMS(総合スーパー)の食品売場や生協(生活協同組合)との競合はもちろんのこと。2011年に起こった東日本大震災以降、コンビニエンスストアは、多くの消費者にライフラインとしての価値を見直され、従来の男性客に加えて、女性客や高齢客への提案をさらに活発化。生鮮食品の品揃えを強化するなどの取り組みが奏功し、SMの牙城であった素材部門まで脅かすようになった。
ドラッグストアの勢いも見逃せない。ドラッグストアは一般医薬品部門やヘルス&ビューティケア部門で粗利益を稼ぎ出し、それを値引き原資に引き当てることで加工食品や日配食品を廉価販売し、集客を図り大きな売上を挙げている。
その代表選手はコスモス薬品(福岡県/宇野正晃社長)である。食品部門は1757億円(対前期比19.7%増)を売り上げ、SM企業ランキングにプロットすると17位にランクインする――。一大食品小売業に成長しているのだ。
ネット企業の参入も待ったなしだ。アマゾンドットコムは、米国で生鮮スーパーの「アマゾンフレッシュ」の実験を開始。シアトルからスタートした取り組みは、現在、ロサンゼルスに拡大中だ。
アマゾンの実験は太平洋を挟んだ対岸の出来事とは言えない。
もしアマゾンが米国において黒字化できるビジネスモデルをつくることができれば、日本進出は当然のこと、資金力にモノを言わせて、拠点として既存のSM企業を買収してしまう可能性があるからだ。
これまで、SM業界は、他の小売市場との比較で言えば、平穏なものだった。
放漫経営が原因で倒産する企業はあったものの、とくに大規模小売店舗法時代は一度出店してしまえば既得権益で守られ、日銭商売の強さも加味して、よほどの経営ミスをしない限り潰れることはなかった。
チェーン企業は、ローカルに根ざすローカルチェーンがベースであり、近隣に商勢圏を拡大してリージョナルチェーン化する企業はあったけれども、日本の保守的な食習慣から、なかなかナショナルチェーン化は図れなかった。その分、競争意識は、他業態と比べて低く、“ローカル天国”と称されるような、我が世の春を長い間、謳歌していたと言っていい。
しかし、ここに来て、そうしたSM企業の“アドバンテージ幻想”は崩壊しつつある。
明日に続く。
『チェーンストアエイジ』誌2013年11月15日号(11月15日発売)の特集は「ここから先は未知の領域 スーパーマーケット混沌」です。是非、ご一読ください。
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