川野清巳ヤオコー社長の「明日に架ける言葉」(2)

2013/03/26 00:00
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(昨日の続きです)


 そして社外にも多くの恩人がいる。一番苦しくて葛藤している30代後半に出会い、大変お世話になった方々だ。

 島田研究室の島田陽介先生。ヨークベニマルさんの大高善興社長と先代社長の故・大高善二郎さん…。

 

 私たちは長くペガサスセミナーで勉強させてもらっていたが、私の肌にはどうも合わなかった。そこで私の肌に合ったセミナーがないかと考えていたところ、島田セミナーの案内があり、軽い気持ちで参加した。正直なところ、あまり期待はしていなかった。

 

 しかし、人材育成と組織論を中心にしたセミナーは、私にとって目からうろこの連続であった。それ以来、可能な限り、セミナーに参加している。アメリカセミナーには、故・大高善二郎さんも参加しており、知り合いになった。

 

 先生の理論や見識は、私にとっては感動であり、驚きであり、行動の大きな指針やヒントになった。近頃、みなさんから「ヤオコーはぶれないから素晴らしい」とおほめの言葉をいただく。

 けれどもそんなことはなく、以前の私たちはぶれることの連続だった。

 

 イトーヨーカ堂さんのマネをしてプロセスセンターをつくり大失敗。長い間、そのことで生鮮食品は低迷した。宅配のフレッシュヤオコー、移動バス、田原屋フーズのM&A(合併・買収)、業績不振店のディスカウントまがい店への業態転換、ツタヤのフランチャイジーだったワイシーシーなど…ぶれたことを挙げればキリがない。もちろんうまくいかなかった。

 多くの社員や取引先に迷惑をかけてしまった。今でも反省している。

 

 それに終止符が打てたのは、島田先生のセミナーでの示唆のおかげだ。

 まず、「何屋になるのかを決めること」が大事であると学んだ。

 

 そして私たちは、「エブリデ―ライフスタイル型スーパーマーケット」を目指すという方針が明確になった。方針とコンセプトが鮮明になったことにより、店づくり、人材育成、組織作りが明確化し、集中できるようになった。

 各種の効果が出始め、業績も安定してきた。

 様々な政策セミナーとともに、アメリカ研修でその実体験をし、多くのヒントをいただいた。経営戦略の策定にはたいへん役に立った。

 多くの人材育成にもつながった。今ではわが社は年に2回、島田先生のアメリカセミナーを実施している。私の方針や理論の大部分は、島田セミナーで教わったことを、自分なりに理解し、実行させてもらったものだ。

 まずは、「エブリデーライフスタイルアソートメント型スーパーマーケット」。次は「ミールソリューション」。今は、「ミールソリューション」と「価格コンシャス」である。

 

 これこそ、先生の示唆、そのものである。島田先生の理論的バックボーンがあって、今のヤオコーがあると言って過言ではない。

 

 ただ、先生の理論に反したこと、そしてヨークベニマルの大高善興さんとの約束を破ってしまったことが1つある。

 それはヤオコーカードの導入だ。「ポイントカードは百害あって一利なし」と私は周囲に言って憚ることがなかった。

 しかし、最近、私は提案型企業ほどPOSデータだけでは不足で、フリクエントショッパーズプログラム(FSP)が必要だと考えるようになった。

 

 それというのも、私は年2回、島田先生のセミナーで、アメリカに研修に行っていたので、クローガーの変化をつぶさに見ていたからだ。売場が急激に充実してきたと感じていた。加えて「ミールソリューション」を充実させ、ウォルマート対策として「価格コンシャス」、すなわち5%作戦も利いていた。

 その上に、もうひとつ打った手が、カスタマーづくりを意図したFSP導入だった。そして私もこの戦略に舵を取ることに決めた。

 もし、島田先生に教わっていなかったら、各企業と同じように、早い段階でポイントカードとして導入して、今頃は大変な目に会っていたと思う。ポイントカードは麻薬であり、安易な対策だからだ。

 だから、「私たちはどんなことがあっても導入しないようにしよう」と大高さんと約束した。しかし私はカスタマーづくりのためにFSPは必要だと考えを改めた。

 ただ、連絡をせずに約束を破ってしまったので、島田先生と大高さんには、この場でお詫びを申し上げたい。

 

 さて、さきほど話したように島田セミナーは、大高家との付き合いのきっかけになった。

 その後、大高家と長い間、親しくさせていただいている一番の理由は、大高さんの母の「野越え山越え」の精神と私の母の「商いのこころ」とが同じような考え方、生き方、価値観を持っているからだと思う。

 

 それだけではなく、同じセミナーに参加し続けているということは企業の目指している方向やコンセプトが似ているのだと思う。

 両社ともに「ライフスタイル型スーパーマーケット」を目指していること。もうひとつの大きな共通点は、個店経営。パートーナーの活用だ。

 私たちはヨークベニマルさんを目標に、いろいろと勉強をさせてもらった。

 私は故・大高善二郎さんとは、アメリカ研修で何度もご一緒した。毎晩、善二郎さんから企業のあり方、理念、哲学、戦略を学ばせてもらった。生き方も教わった。

 

 そして亡くなる数ヶ月前に、ご馳走になった帝国ホテルの寿司屋のこと――。これでお別れだと思った時の後ろ姿がいまだに忘れられない。

 

 その縁で、大高善興さんとも懇意にさせてもらっている。成績が悪かったり、いろいろと悩み事のある時は、相談に乗ってもらった。

 ある時は福島県郡山で、ある時は東京で、ご馳走になりながら教えてもらった。いつも答えは同じで、「商売に近道はない」「基本的なことをしっかり積み上げなさい」「人を育てなさい」ということを分かりやすく、優しく教えてくれた。

 結局は、ぶれてはいけないということだ。

 

 私が「大高さんは恩人だ」と言うと、大高さんは「ボクは何もしていないよ」とそっけない。「ひとつだけ役に立ったとしたら、(ヤオコーで)衣料の取扱いをしたいと相談に来た時、兄弟で反対したことくらいかな」と付け足すけれども、私はそんなものではないといつも感謝している。

 

 私にとって大高家は恩人だ。どうか新社長にも私同様、教えをいただきたくよろしくお願いしたい。
 

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