ゴミ記事、由紀さおりさん、プライベートブランド
私の業界には、“ゴミ記事”という用語がある。
ここで言う“ゴミ”とは、「汚い」ではなく、「小さい」という意味になる。
『チェーンストアエイジ』誌で言えば、前半に位置する「CSA フロントライン」のコーナーがそれに当たり、もっともホットなニュースを紹介する250~400文字くらいの記事を集めている。
ただ、アツアツのニュースを並べるという手前、執筆や入稿は一番後回しになる傾向が強く、放っておけば、締切過ぎのやっつけ原稿となりがちで、内容もつまらなくなってしまう。
しかし、私は、“ゴミ記事”こそ、一番力を入れて書いてほしいと考えている。細かなところにこそ、その雑誌の真の姿が映し出されていると思うからである。
だから、各紙誌の“ゴミ記事”を見れば、その媒体の良し悪しをおおよそ判断することができる。
ここで思い出したのは、歌手の由紀さおりさんである。
2011年、ジャズバンドのピンク・マルティーニとのコラボレーションアルバムの『1969』を22カ国で発売、世界中から高評価を得た。米国iTunesジャズ・チャートとカナダiTunesチャート・ワールドミュージックで1位を獲得している。
由紀さんは、齢63にして、日本を飛び出し、雄飛を遂げた。
すでに各所で報道されているように、大ブレークのきっかけになったのは、「ジャケ買い」だ。ピンク・マルティーニのリーダーであるトーマス・M・ローダーデールさんが、地元オレゴン州ポートランドの中古レコード店で、由紀さんのレコードジャケットに一目ぼれして、購入したことが端緒だ。
もちろん、レコードを聴いたトーマスさんを感動させる力量がなければ、由紀さんに声が掛かることはなかっただろう。
だが、ここではレコードジャケットの装丁に手を抜いていなかったことに注目したい。おざなりにはせず完成度を高めていたことが由紀さんのブレークにつながったのだから。
さて、話は転じて、プライベートブランド(PB)である。
小売業のPBは、いまや消費者から大きな支持を受けるようになっている。トップメーカーとのコラボレーションにより、品質も味も、ナショナルブランドとそん色ないレベルに到達していると言っていい。
しかしながら、パッケージ、包装仕様などの細かな点では、まだまだの印象がぬぐえない。上蓋に「安さの理由」が書かれているPBもあるけれども、食事前に、そんな能書きは読みたくない。
「トレードオフ※の一環」と片付けられてしまえばそれまでだが、そんなところにも手を抜かない姿勢に、PBのさらなるブレークの萌芽があるような気がする。
※ふたつのものが二律背反の状態にあり、片方を重視すれば、その分、もう片方がおろそかにならざるを得ないこと。
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