Aコープに注目!(2)
昨日の続きです。
昨日は、日本の食品小売業が続々と農業に参入している様子を紹介した。
しかし良く考えると、農産物の製造小売業として一日の長があるのは、Aコープである。Aコープは、農協(JA)グループの食品スーパーマーケットであり、その最大の特徴は国産の農畜産物を品揃えの中心に据えている点だ
Aコープの歴史は古く、昭和40年代から、農協の組合員と地域利用者の暮らしを守る拠点として、地域の単位農協がAコープ店舗を開設して運営してきた。1971年にはボランタリーチェーンの「全国Aコープチェーン」を発足して、スケールメリットの享受をめざした。
しかしながら、①大規模店舗法による出店規制、②200坪未満の小規模店舗主流、③地域の農協単位による運営、などに起因して大手スーパーに対しての競争力を持てないままでいた。
そこで、JA全農は、2006年に「全国Aコープチェーン」を解散。新たにAコープ店舗の共同仕入組織「全国Aコープ共同機構」を発足した。
「全国Aコープ共同機構」は、レギュラーチェーンを志向している。JAの強みを生かした青果・精肉の100%国内調達、プライベートブランドの共同開発、ナショナルブランドの共同仕入れなどで大手スーパーとの差別化に注力している。
発足以来、「全国Aコープ共同機構」は、何よりもリストラ(事業の再構築)を優先させてきた。大手スーパーのルーラル(田舎)エリア進出によってライフライン機能を終えた店舗や大きな赤字を計上していた店舗を閉鎖。5000億円ほどあった売上高は、3441億円(527店舗:2009年5月現在)にまで減少した。
ただ、リストラが一段落した近年、いよいよ新しい動きを見せている。
特筆すべきは、「フードファーム」と命名した新業態の開発である。「地場産・県産・国産農畜産物販売拠点」として位置付け、JAグループとしての特色、社会的機能発揮できる新業態店舗として、直売所とAコープ店舗の協働出店を進めている。
開発コンセプトは「直売所とAコープ店舗」の融合。単位農協が展開する生産者直売所とAコープ会社が展開する店舗を1か所で展開する。
店舗コンセプトは、「地元最優先・県産国産最優先」「地産地消」「新鮮・安全安心」「生産者の顔が見えるお店」「組合員・地域消費者のくらしの拠点」だ。
「フードファーム」のタイプは2種類。タイプ1は〈インショップ型〉の出店であり同一建物内で生産者直売所とAコープ店舗を共同出店する。タイプ2は〈別棟型〉出店で直売所とAコープ店舗をそれぞれ別棟で協働出店するというものだ。
「フードファーム」の最新店舗はA・コープファーマーズうえだ(長野県上田市国分80番地)で売場面積640坪(Aコープ490坪、直売所150坪)、駐車台数は250台。
経営主体は、株式会社の長野エーコープサプライ(長野県/松橋武久社長)であるが、JA信州うえだ、JA全農が三者一体となって店舗運営を行っている。最大の特徴は県下最大級の生産者直売所「マルシェ国分」でJA信州うえだ管轄内から約450人が出品していることだ。
「牛肉・豚肉・鶏肉」はJA信州うえだ管轄内のタロウファームのSPF豚を最優先に100%県産、国内産としている。また野菜についても「採れたて野菜」直売コーナーを中心に地産、県産、国内産の生鮮野菜が店頭に並ぶ。
JAグループの強みは、農畜産物生産者を組織化しており、供給源をしっかり押さえていることである。これまで店舗事業はそれほど強いとは言えなかったが、力を入れ始めていることは注目に値する。
大手チェーンが周回遅れで垂直統合(=製販一体型)の商品政策を目指す中で、トップランナーの農協は、“日本のホールフーズ※”になる可能性さえあるからだ。
※ホールフーズ・マーケット(Whole Foods Market)
テキサス州・オースティンを本拠とするオーガニック・フード食品スーパー
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