弱っていた時に、やさしく手を差し伸べられた

2011/04/03 18:39
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 疲れていたのだろう。たまたま座れた帰宅途上の京王線で不覚にも爆睡してしまった。

 気がつくと、〈調布〉駅。「うわっ、4駅も乗り過ごした!」。

 

 ドアの閉まり際に、慌てて飛び降り、階段を上下して停車していた上りの電車に乗り込んでホッと一息。しばらくしてから気付いた。

 「あれ?! バッグがない!」。

 最近、仕事用のバッグを代えたばかりだったので手になじんでおらず、持っていたことさえ忘れていた。

 

 再度、ホームに降りて駅員事務所に尋ねると、「乗っていた電車が特定できないのならば明日以降に改めた方がいい」という。時計を見れば22時15分。

 

 結局、<お忘れ物取扱所のご案内>という紙切れを片手に帰路に着いたのだが、明日は出張。気になって寝床についても今度は眠れない。

 バッグの中には、仕事用の大事な七つ道具が入っていた。出張には必要ないものの、日常には不可欠な品々ばかりだ。

 

 夜明けを待って、6時。まず近くの警察署に届け出る。早朝にもかかわらず、遺失物係の担当者は、いかめしい体つきと顔とは対照的に、やさしく丁寧に応対してくれた。このところお役所の不祥事ばかりを目にしてきただけに、意外だった。

 

 「遺失物届の番号は、【4月1日の1番】。覚えやすいですね」。

 

 <おお、なんかいい予感がする。(税金を)払っていてよかった>

 

 次は「お忘れ物取扱所」だ。営業開始の9時に、外から電話すると、こちらの応対も丁寧そのもの。インフラ系の大企業に勤務する方とはとても思えないソフトタッチな口調。私にバッグの特徴や中身を尋ねながら、遺失物リストに必死で当たってくれている様子が携帯電話の向こう側に見える。

 5分ほど待たされた後――。

 「チダさん。ありましたよ。よかったですねえ。〈橋本〉駅の事務所に保管してあるので、時間を見て取りに行ってください」と年配然とした声の係の方は親身になって喜んでくれた。

 

 思わず、胸をなで下ろした。

 開始から発見まで、わずか3時間の捜索劇だったが結構長いプレッシャーだった。

 「よかった。これで安心して出張に集中できる」。

 

 とここまでが、おとといの話である。

 

 そして昨日の土曜日にバッグを引き取りにいくと、〈橋本〉駅の対応もしっかりしており、何の嫌な思いもすることなく、手元には大事なビジネスバックが戻った。

 

 考えると、他人の情け、やさしさ、あたたかさに触れ、感謝したのは久しぶりのことだ。

 また、お役所やインフラ系大企業の最前線で働く方々へのイメージもずいぶん変えられた。

 

 ここから得られた教訓は、「弱っている人には、やさしく手を差し伸べる」という当たり前のことを当たり前にしたいということ。そうそう、「慣れない新しいバッグを持っている時には、居眠りをしない」という教訓も得た。念のため。

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