流通外資の強み(上) コストコホールセール
札幌倉庫店(北海道)、入間倉庫店(埼玉県)、新三郷店(埼玉県)…。2008年以降、会員制ホールセールクラブ(MWC)コストコホールセール・ジャパン(以下、コストコ:神奈川県/社長)の新店が相次いでオープンしている。
コンビニエンスストア(CVS)の100倍の売場面積(=約1万㎡)にCVSとほぼ同じ3500品目しか商品を揃えない。個人の年会費は1年間、4200円と高額。にもかかわらず、団塊ジュニア世代を中心に連日、消費者が押し寄せ、土日には「コストコ渋滞」なる現象を周囲の道路に引き起こす。平均客単価は1万2000縲怩R000円(『チェーンストアエイジ』誌調査)に上る。
ところが、この“黒船”の快進撃について、食品スーパー(SM)企業のトップにコメントを求めても、反応は鈍い。「SMとMWCでは業態が異なるので競合しない」と木で鼻をくくったような返事があるばかりだ。
とはいえ、コストコは日本の消費者の中に確実に浸透し、日本市場のシェアを奪いつつある。
その象徴ともいうべきは、同社のオリジナル商品で売れ筋の「ロールパン」(36個入り)だ。
つい1縲怩Q年前まで、コストコの顧客は、「ロールパン」を購入するに際して、幼稚園や小学校の母仲間「ママ友達」3人で来店し、精算後、フードコートなどで3つに分けて、持ち帰っていた。だが、買物するのに一々三人がそろって出かけるのは面倒くさいもの。そこで現在、多くはこれを3等分することなく、1人で36個を持ち帰るようになった。
「コメ食」と比べて、相対的に割高な「パン食」を維持するための工夫だろう。顧客は36個入りのロールパンを持ち帰り、その日に食べる数量を除いて、1つ1つ個別に冷凍してしまう。その後、必要に応じて、解凍し焼いて食べるという生活防衛手段を学び、実践している。
「購入したその日のうちに冷凍してしまえば、パンはいつまでも、おいしく食べられます。問題は冷凍庫のスペースが狭くなってしまうことね」と30代前半と見られる女性客は笑いながら話す。
そして、こうした買い方が普及すれば、次には大型冷蔵庫が売れるかもしれない。
と、コストコの店内を見まわしてみると、3500品目しか揃えていないにもかかわらず、その大型冷蔵庫をしっかりと販売しているのだ。
「さすが!」とうならざるをえない。
「むかしの節約は買わずに空腹でもガマンすることを指した。しかし、いまの消費者は買いながら節約している」とある小売業のトップは、この現象を解釈する。
アメリカ的な低来店頻度・大容量消費は、コストコを介して、日本にも定着するようになる可能性が高い。
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