短期間の損益に一喜一憂しない
もう、バブル期以前の30年以上も前のこと――。
静岡県某所を拠点とする、ある食品スーパーの社長は、創業以来、悪戦苦闘を繰り返しながら、少しずつ私財を蓄え、通帳に「\50, 000,000」(5000万円)の数字を並べるまでになった。
そこで、念願だった自宅を建てようと、業者を呼び、自由に見積もりしてもらうと、7500万円という数字が記されてあった。
「静岡県の片田舎にこれだけのおカネを注ぎ込んで、自宅を建てる必要があるのか?」と迷った社長は、業者に「(貯金額の)5000万円の範囲で収めてほしい」と再見積りをお願いした。
業者は、機械的にさっさと見積もりに赤線を引き始め、不要だと思われる項目をどんどん削除した。10分を待たずに合計金額を5000万円にしてみせた。
目の前でいとも簡単に消されていく仕様を眺めながら、社長は考えた。「オレの自宅は、ホントにこれでいいものなのか?」と――。
数分後。気を取り直して、業者に言った。「やっぱり、前の見積もりで結構です。その金額で建ててください」。
予算を2500万円も超過したけれども、さすがに腕のいい業者の仕事は納得がいくもので新築住宅の住み心地は最高だった。「ケチらなくてよかった」と心から満足した。
しかも自宅は年月を経るごとに、欧州の古城のように重みを増し、静岡県の小さな町では、周辺のエリアを含めても1番目か2番目に立派な建築物として、いまなお輝き続けている。
こうした経験をもとに、社長は、何事も目先のそろばん勘定だけでは判断しなくなった。
米国流に1年ごとの損益に一喜一憂するのではなく、長期的な視点に立って経営すべきだと思える境地に至り、いまもなおかたくなにその信念を貫き通している。1年、2年は赤字でも、10年後にはしっかり利益を計上できる店舗を建て続けているのだ。
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