マッディング・ウォーター(muddying the water)作戦で大手に対抗する
「ウォルマート(WALMART)のような低価格を訴求する小売業にはなかなか勝てるものではない」。
FSP※(フリクエント・ショッパーズ・プログラム)の第一人者であるブライアン・ウルフ氏(リテイル ストラテジー センター社長)は言う。
「つい数年前までアイスランドにスーパークイン(SUPER QUINN)という素晴らしい食品スーパー(SM)企業があった。店内は高級感に溢れ、FSPのシステムもしっかり整備しており、非の打ちどころがないような企業だった。しかしながら倒産した。市場に参入してきた大手小売業のテスコ(TESCO:英)やアルディ(ALDI:独)との価格競争に敗れたためだ」。
ブライアン氏は、どんなに素晴らしいSMであっても低価格訴求する大手企業との価格差が広がり過ぎた場合は、敗北を強いられると強調する。
そこで最近、ブライアン氏が中小のSMをコンサルティングする際にまず指導するのは、筋肉質の財務体質の実現である。余計なコストを切り詰め、値下げの原資をねん出するというものだ。
その上で「マッディング・ウォーター(muddying the water)」と称する作戦に持ち込むのだという。マッディング・ウォーターとは、泥水をかき回し続けているような状態。大手企業を“煙に巻く”というような感じを想像してもらいたい。
マッディング・ウォーター作戦の代表格というべき企業がニューヨークにある高級SMのダゴスティーノ(D’Agostino)だ。総アイテム数約2万のうち、買物頻度の高い500アイテムだけの価格を下げ対抗している。
500アイテムの特売商品については、FSPのカードにためたポイントでのみ支払うことができる仕組みなので、もとからのダゴスティーノのファンは、他店を買い回りすることなく、家計支出のほとんどを落としてくれるようになる。
ウォルマートのようにEDLP(エブリデー・ロー・プライス)を実践している企業とカートショッピングの金額を比較すると明らかに大差がついてしまうのだけれども、500アイテムだけを安くすることで、“お客の価格認識”を曖昧にする作戦だ。
ダゴスティーノのような中小SM企業は、マッディング・ウォーター作戦と併用する格好で①生鮮食品の鮮度、②健康配慮、③プレゼンテーションなど、別の切り口での差別化政策にも力を入れ、「合わせ技一本」を狙って、大手と競合しながら勝ち残りを図ろうとしている。
※ポイントプログラムの1つの考え方。お客にポイントカードを発行し、購入量・購入頻度などに応じて段階的に付加サービスを提供することで優良顧客の維持拡大を図る手法。
『チェーンストアエイジ』誌2011年10月15日号では、ブライアン・ウルフ氏のインタビューを掲載します。どうぞ、ご一読ください。
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