アークス横山清社長 東日本大震災を語る
アークス(北海道)の横山清社長は、新日本スーパーマーケット協会会長(東京都)や北海道シジシー(北海道)社長などの要職を兼務する流通業界の“論客”。東日本大震災について聞いた。(談:文責・千田直哉)
東日本大震災を目の当たりにして痛感したのは、いままで便利であったものがいかに無力であったかということだ。
これまで堅く信頼してきたものが実は脆弱だった。その意味ではショックはある。われわれ自身が、これからの考え方を改めていかねばならないだろう。
今後、小売業、流通業という小さな括りだけではなく、日本にある既存の価値観は大きく変わっていくものと思われる。
折しも、日本は政治も過渡期。経済も大きく変動している時だ。
そこで大事なことは、復興後の世界をいかに描くかだ。個々の企業、地域、トータルでは、日本の政治・経済・社会・文化の世界にまで価値観の変化が及んでくるだろう。
アークスの被災店舗は3店舗だった。海岸沿いにある店舗が津波で被害を受ける寸前までいったとか、早めに店を休業したとか。その営業的なロスがあった程度だ。
ただ残念なのは、日本国中、大変な被害に遭っているだけに、北海道の出来事はニュースにもならないことだ。実は、漁船や沿岸の被害だけで約350億円あった。営業ロスは別だから、決して小さな被害とは言えない。
そして、東日本大震災の影響は日を追うごとに北海道においても、直接・間接な形として出てくるはずだ。
この動きにいかに対応するかは、いま全社を挙げて検討しているところだ。
わがCGCグループ(東京都/堀内淳弘代表)は、15社が被災した。休業54店舗、全半壊27店舗、福島第一原発の影響による休業16店舗(3月31日現在)である。
3月11日の地震発生直後から社内に緊急対策本部を設置。シジシージャパン(東京都)の森田隆夫社長を本部長に「商品」(緊急対応商品、通常商品の2グループ)と「情報」(加盟企業、取組先企業、社内、インフラの4グループ)の2班6グループに分かれ24時間対応を始めた。
3月29日までに救援物資を22万8194ケース、10トン車で約235台分を手配した。
被災したにもかかわらず東北地方の小売業はもの凄い努力で半壊の店舗の駐車場で商品を販売している。食品スーパー(SM)は、地域生活のライフラインと言われて久しいが、あそこまでやれるかという根性と仕事に対する使命感に感服した。
一方、私が会長を務める新日本スーパーマーケット協会(東京都)はHP(ホームページ)やツイッターを駆使して、「東日本大震災に伴うスーパー各社の状況」を早い段階から立ち上げ、毎日更新した。
サプライヤーさんも同業の仲間も、被災地に何かしたくても、よくわからない。協会のHPの情報でリアルによくわかったと評価が高かった。
いまも多くの余震が続いているが、今後の消費マインドはどうなるかは予想しづらい。
東日本大震災では、水や缶詰、電池がなくなった。これはどんな天変地異でも同じ傾向だ。コメもふだん売れない量が売れたけれども、ストックだから必ず反動が来ると考えなければならない。
また部材が揃わないために、グロサリーの商品が不足すると言われているが、これは大した問題ではないと考えている。
問題は、生鮮食品だ。野菜、果物、鮮魚、酪乳などの流通がどうなっていくのか?
折からの放射能汚染の問題もあり、商品調達が不自由になることは間違いない。
もうひとつの問題は、「贅沢はやめましょう」という自粛傾向だ。「お祝いやお祭りを自粛しよう」という動きがある。SMは、このところはハレの日向けに需要創造をしてきただけに残念な動きだ。
また、特売が可能な商材も減っており、サプライヤーさんも常軌を逸した低価格訴求をする小売業との取引は控えたいと思い始めている。
そういうことが引き起こすトータルな需要減。売上不振は起こるだろう。
それがどのくらいになるのかは分からない。
とはいうものの、悲観ばかりでは仕方ない。足元を見つめ直すにはいいチャンスだと考えたい。われわれは、東日本大震災を経営を根幹から見つめ直すきっかけにしたい。
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