週末読書おすすめの一冊:ネットは社会を分断…しているのか?

ダイヤモンド・リテイルメディア 流通マーケティング局
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ネットは社会を分断しない(角川新書)

著者:田中 辰雄 / 浜屋 敏

ネットは社会を分断しない
角川新書/本体価格860円+税

 タイトルからして、議論を呼びそうだ。

 「ネトウヨ」「パヨク」など、ネット上ではある意見に対し「戦争推進派」や「反日派」などと必要以上にレッテルを貼り、糾弾するということが日常的に起きている。極端な意見(または対立者へのフェイクニュース)が人気を集め、「いま話題のコンテンツ」として検索エンジンやSNSなどで優先的に表示される。そこに集まるコメントの極端さゆえ、社会に「分断」が起きていると考える意見が多勢ではないだろうか。

 著者は、この論調に真っ向から反論する。さまざまな角度のアンケート結果から、「ネット」によって「社会は分断していない」と。

 ネット利用割合が比較的高い若年世代においては、保守・リベラルの度合いが薄い(ポイントが低い)という調査結果が出る。一方で新聞購読割合が高い(=ネット利用割合が低い)高齢世代においては、保守・リベラル度合いが濃くなる(ポイントが高い)という。

 新聞などの従来メディアは、新聞社によって政治的思考がある種で明確に分かれており、選択的接触(=好みの情報しか選択しない)が自然に起き、結果として一方の思想に振れやすいのでは?というのが著者の見解だ。

 一方ネットでは、アルゴリズム次第にせよ「一方」の意見だけを表示するということはない。例えば、保守寄りであるA社のニュースの関連情報としてリベラル寄りのB社のニュースも表示されている。これらを比較し、複数の側面から判断することがネットでは可能だ。ゆえに、ネットを利用することで分断は起こりにくいと、著者は結論を導いている。

 当書は発刊から3か月ほどで早速、議論を呼んでいる。「高齢者はさまざまな経験を経ることで、政治的思考がまとまってくる、ゆえに分極化が進む。これはネット以前からの事象である」といった論調である。これも、同意できる考えである。

 しかし、これらの議論こそ、ネットと社会のかかわり方を深化させていくために必要であろう。著者はあとがきにて「分布の中間の人々の言論空間をつくることが最大の対策になる」と強調している。この指摘は大変興味深い。

 すっかり、分断の象徴的な現象となってしまった感のある前回のアメリカ大統領選やブレグジット。当時、メディアがこの「中間の人々」の意見にしっかりと焦点を当てられていたら、果たして同様の結果になっていただろうか。

 当書は、ビジネスパーソンが今後、ネットとどのように向き合っていくべきか、さまざまな視点からヒントを与えてくれる。

 

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