リテール・ストラテジーセンター社長 ブライアン・ウルフ
ウォルマート対策には無駄のない経営と、価格差を感じさせない工夫が不可欠

2011/10/27 00:00
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データ活用でディスカウンターに対抗

──従来FSPはワン・トゥ・ワンマーケティングの取り組みとして注目されてきましたが、最近その方向性が少し変化していると考えてよいのでしょうか。

 

ウルフ もちろんワン・トゥ・ワンマーケティングという側面もあり、それを選ぶ企業もあります。ただ、顧客データを活用してワン・トゥ・ワンマーケティングを実現するためには、膨大な量のデータと、その分析が必要です。

 

 FSPの目的は、顧客情報やターゲット情報を活用して、一度来店した顧客にいかにして再度来店してもらうかというものです。ただ、最近では集めた顧客情報を使って、どのようにしてビジネスを改善していくかという点に比重が置かれるようになっています。

 

 今は「ワン・トゥ・ワンマーケティング」という表現よりも、「MIM (More Intelligent Marketing:より知能的なマーケティング)」といったほうが的確かも知れません。顧客情報をマーチャンダイジングや競争相手との差別化など、以前よりも賢く活用するようになっているからです。データ活用の方法もさまざまで、データをどう分析してビジネスの改善に役立てるかという“知能ゲーム”に変化してきています。

 

──こうした戦略を推進していくと、お店のファンとそれ以外の顧客を二分することになりますね。

 

ウルフ そうですね。より多くのポイントを集めた顧客が安く買物でき、ポイントを引き換える際に履歴が出るのでレジ係員も得意客の顔を覚えるようになります。

 

──この戦略は、ウォルマートと競合した場合に、競合対策として効果があるのでしょうか?

 

ウルフ 戦略の1つになり得ると思います。

 

 食品を扱うフォーマットには、大きく分けて2つのタイプがあります。ローコスト・オペレーターになるか、高度に差別化を図った店になるかのどちらかです。プライス・リーダーというのは市場に1社しか存在し得ないので、その他の店舗は差別化に特化せざるを得ません。

 

 問題は、差別化に特化した小さな店舗であっても、プライス・リーダーとの差が大きすぎてはいけないという点にあります。しかも価格差を最小限に抑えて顧客に安さを認識させる努力をしながらも、よいサービスを提供し、きれいな店づくりをしなければならないのです。

 

 アイルランドのスーパークイン(Super-quinn)を例に説明しましょう。同社は最近、会社を売却しましたが、彼らは世界中でも最も優秀な小売店の1つだったと評価しています。素晴らしいFSPがあり、ターゲット・マーケティングを行い、効果的な戦略をいくつもとっていた。扱っている商品の品質も素晴らしく、よいサービスを提供する高度に差別化された企業でした。

 

 しかし、購買力のある世界の2大企業、英テスコ(Tesco)と独アルディ(Aldi)が相次いで市場に参入し、厳しい競争にさらされました。スーパークインは価格競争に敗れ、顧客を失ってしまったのです。

 

 つまり、高度に差別化された企業であっても、価格差を埋めることができなければ、生き残ることはできません。SMというのは、ある一定の幅以上に競合店との価格差を広げてはならないということです。

 

 だからこそ無駄のないスリム化された効率的な経営が必要だし、「水を濁らせる」ことによって価格差を最小限に抑えなくてはいけないのです。

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