リテール・ストラテジーセンター社長 ブライアン・ウルフ
ウォルマート対策には無駄のない経営と、価格差を感じさせない工夫が不可欠
──「マディング・ザ・ウオーター」作戦について教えてください。
ウルフ 現在、FSPにおいて私が最も注目している展開は「マディング・ザ・ウオーター」作戦です。「水を濁らせる」というのはつまり、泥を入れ水をかきまぜて水を濁らせるように、直接的な価格の比較がし難くなるよう撹乱させることを表します。
日本にも共通の問題ですが、ウォルマートのような企業に対抗しなくてはいけない中で、週3回発行しているチラシを止められる企業がありますか? そんな企業はないはずです。つまり皆、変化を恐れているのです。
ニューヨーク市内に20店舗ほどある高級SMのダゴスティーノ(D’Agos-tino)を例に見てみましょう。ニューヨーク市内にも食品ディスカウンターが進出してきたため、彼らは「マディング・ザ・ウオーター」作戦をとりました。彼らの店舗は小規模なので、EDLPに取り組むディスカウンターのような低価格を実現することはできません。そこで、FSPプログラムを活用して、約1万5000アイテム中500アイテムの価格をEDLP企業よりも安く設定しました。
たとえば、レタスをいつでも48セントで購入できるようにする。しかし、その価格で購入するためにはFSPで貯めたポイントのうち500ポイントを引き換えに使わなくてはいけないという条件を付けたのです。同店では買物1ドル当たり10ポイント貯められるので、50~60ドル買物をすれば、48セントでレタスが購入できるようになります。たくさん購入してくれる得意客には、低価格で商品を提供する仕組みです。
ワシントン州にあるSMチェーンのタイディマンズ(Tidy-man’s)は約3万アイテムの取り扱いアイテム中10アイテムだけを、きわめて低価格(クレイジー・プライス)で提供しています。これは非常に大きな反響がありました。お客はタイディマンズでだけ買物するほうが得だということがわかり、他社の店舗への顧客の流出を食い止めることにつながりました。
昨年訪問したペルーでも、都心にあるハイパーマーケットがポイントとクレイジー・プライスを組み合わせて商品を提供する仕組みを活用していました。このように、得意客にだけ低価格で商品を提供して「水を濁らせる」ことが、小さい会社が大手との競争で生き残るための施策として今後、大きなトレンドとなると考えています。