ゼロエミッションとは?意味や実施するメリット、具体的な取り組みを紹介!
地球環境の話題になると必ず耳にする言葉に「ゼロエミッション」がある。特に温室効果ガス(CO2)に焦点をあてて議論されているが、一体ゼロエミッションとはなんなのか、なぜ取り組まないといけないのか、課題はなんなのかなど疑問を抱く方も多いことだろう。
本記事では、ゼロエミッションの歴史を振り返りながら、ゼロエミッション実現に向けた取り組みの動きや実現が難しい理由を解説し、具体的な取り組み事例も紹介していきたい。この機会にぜひゼロエミッションの理解を深めよう。
ゼロミッションの意味とは?
ゼロエミッションとは、企業活動や市民生活から排出される廃棄物を、リサイクルや排出量縮減を通じて限りなくゼロに近づけることを意味する。エミッション(emission)とは排出という意味である。最近では、とくに温室効果ガス(CO2)の排出ゼロに向けた取り組みをゼロエミッションと呼ぶこともある。
数ある廃棄物の中でも、温室効果ガスは地球気温の上昇を通じ、環境に致命的かつ不可逆的なダメージを与えるとされている。UNEP(国連環境計画)によると、すでに地球の気温は産業革命前に比べて1度上昇し、このまま放置すれば2100年までに4度上がるとされている。
温室効果ガス排出削減に向けた歴史
この地球規模での危機的状況回避にむけて、1997年には京都議定書、2015年にはパリ協定が採択され、温暖化ガス削減に向けた機運が盛り上がった。
排出削減の足を引っ張ってきたのは、共和党政権下におけるアメリカ、そして成長著しい中国をはじめとする新興国だ。アメリカはブッシュ政権時代に京都議定書から、トランプ政権時代にパリ協定から離脱した。一方で中国・インドなどは、「(温暖化ガスを)これまで撒き散らしてきた先進国が率先して削減に取り組むべき」と主張し、非協力的な姿勢を貫いてきた。
しかしながら、トランプからバイデンへの政権交代をきっかけとして流れは変わってくる。バイデン大統領は就任すぐにパリ協定復帰の大統領令に署名、さらに2050年に向けて温暖化ガスのゼロエミッションをめざす「カーボン・ニュートラル戦略」を打ち出した。それにともない、日本やヨーロッパの主要先進国もゼロエミッションに向けて動き出した。21年6月に開催されたG7サミットの共同声明でも、途上国にむけた温暖化ガス削減の資金支援(年間1000億ドル)が合意されている。
ゼロエミッションを実施することの効果
ゼロエミッションによるメリットは、急激な気候変動の緩和と、対策による投資効果にある。
アジア各地で頻発している「100年に1度」クラスの集中豪雨や超大型台風、アフリカ地域における熱波・干ばつ、毎年のようにアメリカ南部地域を襲うハリケーン、海水面上昇に伴う高潮、気温変化による農産物収穫量の減少、海流変化による漁獲量の変動なども、根本的には地球温暖化が原因とされている。地球温暖化抑制が遅れれば、環境への悪影響はますます甚大化するというわけだ。
一方で、ゼロエミッションには投資効果も期待される。発足早々バイデン政権が打ち出した2兆ドル(約220兆円)にのぼるインフラ投資計画には、クリーンエネルギーの電力網整備やEV(電気自動車)の急速充電所50万カ所設置の費用10億ドルが含まれているようだ。
ゼロエミッションの実現が難しいとされる理由
ゼロエミッションのデメリットは、コストアップによる経済圧迫だ。原発の新増設が難しい現状でゼロエミッションを達成しようとすれば、太陽光や水素などの再生可能エネルギーに頼らざるを得ない。
現状で、再生可能エネルギーのコストは割高だ。世界的には太陽光・風力発電のコストダウンが進み火力・原子力をも下回ったとされるが、立地面で制約の大きい日本には当てはまらない。経済産業省は、発電量の5〜6割を再生可能エネルギーで賄うとすると、コストは約2倍に上昇すると試算している。
ゼロエミッション実現に向けた具体例
ゼロエミッション実現に向けた具体例として、国や都道府県などの行政による取り組みや一般企業による取り組みについて紹介する。
日本政府による「エコタウン事業」
エコタウン事業は「ゼロエミッション構想」を基本構想として平成9年に環境省が創設した制度のことを指す。
エコタウンとは環境調和型まちづくりといわれ、それぞれの地域が培ってきた産業を活かした環境産業の振興や地域の独自性を踏まえた廃棄物の発生抑制、リサイクルの推進を後押しすることで、資源循環型社会の実現を図ることを目的としている。
そもそもなぜエコタウン事業が提唱されたのだろうか。それはバブル景気による産業廃棄物の増大により廃棄物処分場が枯渇する恐れが出てきたからである。人々が豊かになるにつれ便利な家電が次々に開発され大型化されていった。
家電の大型化にともない梱包資材の使用も増加し廃棄物の種類も多様化した。その後バブル崩壊とともに素材産業が構造的な不況に陥っていった。そして、低迷した地域経済の活性化を目的としてエコタウン事業が実施され始めたのだ。
エコタウン事業では承認された26の指定地域をエコタウンとし、産業廃棄物の処理問題や地域経済の向上を目指している。
一例として、エコタウン事業が開始し真っ先に手を挙げた北九州市の取り組みを紹介する。北九州市は重化学工業を中心に発展し、高度経済成長期には大気汚染は国内最悪を記録し、工業排水の垂れ流し問題もあった。
これらの反省から「教育・基礎研究」、「技術・実証研究」、「事業化」の3点を総合的に展開する北九州方式3点セットを掲げ、エコタウン実施の範囲を拡大させている。2016年度の調査結果によると再資源化によるCO2削減効果は50.3万トン/年となり着実に効果をあげている。
東京都の「ゼロエミッション東京戦略」
東京都は2019年12月に「ゼロエミッション東京戦略」を策定・公表した。実施理由としては、2050年までにCO2削減達成を実現するためである。東京の平均気温上昇を1.5℃に抑えることを目標とし、最終的には2050年までにCO2排出ゼロを目指す。
2050年のCO2排出ゼロの途中目標として、東京都は2030年にCO2排出量を50%まで削減(2000年比)、都内のエネルギー消費量を50%まで削減(2000年比)、再生可能エネルギーによる電力利用を50%まで増やすことを掲げ、ガソリン車の販売もゼロを目指す。
ゼロエミッション東京戦略の体系は6つの分野と14の政策にわかれておりその内容は環境問題全般を網羅している。エネルギーセクターでは再生可能エネルギーの利用促進を、都市インフラセクターではゼロエミッションビルの拡大・促進を、資源・産業セクターでは3R(リユース、リデュース、リサイクル)の推進やプラスチック対策、食品ロス対策を掲げている。
また東京都では東京ゼロエミポイントを付与する事業も立ち上げている。これは都民が設置済みのエアコン・冷蔵庫・給湯器を省エネ性能の高いエアコン・冷蔵庫・給湯器の買い替えた場合に、商品券とLED割引券を配布する取り組みだ。都民に省エネ性能の高い製品への買い替えを推進することを目的としており、行政・都民が一体となって目標達成に取り組める施策となっている。
すべてを実現するには相当の壁が立ちはだかることが予想されるが、まずは目標を掲げ、行動を移すことが大事だ。
◇水素エネルギー実用化に向けた日本企業の取り組み
ゼロエミッションの例として、水素エネルギー実用化に向けた日本企業の取り組みを紹介する。
再生可能エネルギーや原子力により発電インフラの温暖化ガス排出ゼロが実現したとしても、輸送手段や産業活動のすべてを電化できるわけではない。航空機や船舶の電化は非現実的であり、高炉製鉄で使うコークスも電気には置き換わらない。
そこで期待されるのが、燃やせば水しか排出しない水素エネルギーだ。水素エネルギーに関しては、三菱重工(東京都/泉澤清次社長)が火力発電燃料の水素置換、旭化成(東京都/小堀秀毅社長)が水素燃料開発、トヨタ(愛知県/豊田章男社長)が実用車販売を実現するなど、世界の中で日本が先行している。このまま優位を保てるか、今後の官民含めた取り組みに注目が集まる。
まとめ
ゼロエミッションを達成することは簡単なことではない。なぜならすべての歯車が噛み合わないと前に進んでいかないからだ。行政がいくら政策を掲げても国民に支持されて実施してもらわなければ意味がない。またゼロエミッションは企業にも推進の是非がある。
企業としてはゼロエミッションを進めることは今すぐの利益につながらないからだ。体力のある大企業は、企業価値向上のために先手を打つが中小企業はそうはいかない。実際、取り組み事例として挙げられるのは大企業の事例ばかりだ。この点は行政の後押しも必要だろう。
まずは意識改革が必要だ。誰のためなんのためにゼロエミッションを実現するのかをしっかり考えるときが来ている。