インバウンド(Inbound)とは?メリット・デメリットや対策方法をわかりやすく解説!
「新型コロナウイルスの大流行によりインバウンド需要が減少し事業者が苦境に立たされている」といったニュースを目にする機会も多くなった。海外からのお客さんがいなくなったいま、どのような対策を講じるべきかが経済全体での課題となっている。
本記事では、インバウンドが減ることでなぜ事業者が苦境に立たされるのか、インバウンドのメリットとデメリットはなにか、どのような対策を講じれば良いのかについて解説する。
インバウンドとは?
インバウンドとは、訪日外国人観光客を意味する。ちなみに、日本から海外に出かける観光客はアウトバウンドと呼ばれる。
飛躍的に伸びてきたインバウンド
2012年頃までは年間1000万人に満たなかったインバウンドは、その後急速な伸びを見せ、2016年には2000万人、2018年には3000万人を突破、2019年には過去最高の3188万人に達した。
国別では、1000万人近くに達する中国(959万人)を筆頭に、韓国(558万人)・台湾(489万人)・香港(229万人)と東アジア勢が続く。一方で欧米勢ではアメリカは5位の172万人がトップに立つ。
インバウンドが注目される理由
インバウンドは日本経済に大きな影響を与えている。なぜならインバウンド需要は日本の国内消費額における減少分をカバーできると期待されているからだ。
日本は少子高齢化が進み、消費者数そのものが減少、それにともない国内消費額も減少している。年金問題もありお金を使うことに消極的な感情を抱いている層も少なくない。
そのような問題もあるなかで、インバウンド需要がいかに日本経済に影響を与えるのかについて経済産業省が試算結果を示している。それによると仮に新型コロナウイルスにともなうインバウンド消費の減少が年間9割に達するとGDPを0.8%押し下げるというのだ。
このような理由からわかるように、訪日外国人観光客による消費行動が経済活性化につながっているのは明白であり、訪日外国人観光客が日本を訪れると滞在中に宿泊費、飲食費、交通費を必ず使い、日本の観光地を訪れればそこでお土産も買うだろう。
また、訪日外国人観光客はいわゆる定番の観光地である京都や北海道だけでなく地方にも足を伸ばしてくれる。つまり都市部や特定の観光地だけでなく日本全国を潤してくれるというわけだ。
日本経済を潤す訪日外国人観光客をもっと呼び込まない手はないと、政府は「明日の日本を支える観光ビジョン」で、訪日外国人観光客数を2030年までに6,000万人まで増加させる目標を掲げている。
さらに、訪日外国人旅行消費額を2030年までに14兆円、外国人リピーター数を3,600万人まで増加させようとしている。日本は自然・文化・気候・食という4つの条件を兼ね備えた世界でも有数な国であり、魅力を存分にアピールすることでさらなる経済効果が期待されている。
インバウンド増加のメリット
インバウンドが増加することによるメリットについて、より具体的に見ていきましょう。
観光客の消費支出より経済的恩恵が得られる
インバウンドのメリットは、観光客による消費支出がもたらす経済的恩恵に尽きる。2012年に1兆円だったインバウンド消費支出は、2019年には5兆円近くに達した。消費支出額トップは中国で全体の1/3以上を占め、これに韓国を台湾が続き、東アジアが全体の6割近くを占める。
一方で一人当たりの消費支出では、トップのオーストラリアが24.8万円で、これにイギリスの24.1万円、フランスの23.7万円と欧米勢が上位に立つ。
宿泊・飲食が全体の半分を占めるが、最も大きいのは土産などのショッピング需要で全体の1/3以上を占めた。人口の減少と長引く経済低迷の影響で国内消費が落ち込み気味にある中で、経済界とくに国内消費に頼る小売・宿泊業や地域経済がインバウンド効果に抱く期待は大きい。
地方活性化につながる
インバウンドがもたらす効果は直接的な経済活性だけでなく、間接的な経済活性も生む。なぜならインバウンドで訪日外国人観光客が多く訪れればさまざまな働き手が必要となる。すると地方であっても雇用が生まれる。人が人を呼ぶがごとく、訪日外国人観光客が訪れれば訪れるほど地方の労働人口確保につながるのである。
また、訪日外国人観光客はどこの国にでもあるような文化に興味を示さない。なぜなら体験したいのは日本の伝統文化に触れることであり、彼らにとって見たことも聞いたこともない日本の伝統文化がとても新鮮に感じられるからだ。
彼らは国に帰ると日本で見たこと体験したことを広めてくれる。海外で伝統文化が評価されれば日本国内での機運も高まり伝統文化の保護へとつながる。
訪日外国人観光客にただ観光へ来てもらい、お金を使って終わりという流れではもったいない。訪日外国人観光客のニーズをしっかりとらえようと試行錯誤することで、それが新たな産業の創出へとつながるのだ。
インバウンド増加のデメリットや課題
インバウンドが増加することはメリットだけではない。ここではデメリットについても解説する。
インバウンドは外部環境の影響を受けやすい
インバウンドが新型コロナウイルスの影響で壊滅的打撃を受けたのは周知のとおりだが、インバウンド動向に影響を与えるのはなにもパンデミックだけではない。
2019年のインバウンドは3188万人と、前年対比で微増にとどまった。中国に匹敵していた韓国からの受け入れ人数が、徴用工訴訟と半導体素材輸出管理問題に絡んだ日韓関係悪化の影響を受け急速に落ち込んだことが原因とされている。日韓に限らず、海外からの観光客動向は相手国の政情不安や外交関係の影響を受けやすい。
世界各地で問題化するオーバーツーリズム
観光インフラのキャパシティを超えて海外から観光客が押し寄せ、さまざまな軋轢を引き起こす、いわゆるオーバーツーリズム問題が、スペインのバルセロナやイタリアのベニスなど世界各地の有名観光地で深刻化した。程度の差こそあれ、同じ状況は古都鎌倉や京都でも顕在化した。
オーバーツーリズム問題の1つは、名所旧跡への観光客集中だ。京都・嵐山も一時は竹林の小径などに観光客が集中したため、スマホアプリを通じて混雑状況や回遊コースなどを情報発信し、混雑の分散・緩和を促した。
訪日客とのコミュニケーション
日本の観光地はどこでも訪日外国人観光客を歓迎しているわけではない。なぜなら日本では多言語に対応できる人材確保が難しく、コミュニケーションに対して壁があるからだ。最近では小学生から英語教育が取り入れられているが、その教育が実り実践の場で活かされているかというと疑問である。
また、訪日外国人観光客が観光地を訪れることに拒否反応を示すこともある。理由としては、訪日外国人観光客のマナーの悪さが目立ちトラブルが発生することも多くあるからだ。例えば「撮影禁止の場所で撮影する」、「ごみのポイ捨て」などは訪日外国人観光客が引き起こすマナー違反として多く挙げられるものだ。
そして、「温泉の入り方」のように文化を知らずに引き起こすマナー違反もある。悪気があってもなくても、住民にとっては迷惑なはなしであり悩みの種となっている。
インバウンド対策を成功させる2つのポイント
インバウンドがいかに大切で重要であることを紹介したが、ここではインバウンド対策を成功させる2つのポイントを解説する。
訪日客に受けるポイントや魅力を明確にする
訪日外国人観光客のニーズをとらえることはとても大事なことだ。なぜならニーズがないモノやサービスにお金や時間をかけるのはムダになってしまうからである。
例えば、北海道のニセコが良い事例として挙げられる。パウダースノーで有名なニセコだが、北海道民からすればパウダースノーは当たり前という認識だ。しかし、外国人にはニセコのパウダースノーは魅力的に感じるポイントになる。ニセコ地区はこのニーズをうまくキャッチし、見事に観光業を成功させている。
また、ニセコ地区の「公用語」は英語だ。あちこちで英語表記が見られ、日本人に対しても従業員の第一声は英語で行なわれ、訪日客が訪れやすい環境が十分に整えられている。
なにが訪日客にとって魅力的かを上手にとらえ、訪日客の満足度を上げればおのずとリピート率も上がる。また訪れた外国人がその魅力をSNSで拡散してくれれば、より多くのインバウンド需要にもつながる。訪問客が増えれば増えるほど好みや行動が予測しやすくなり、さらにインバウンド対策を打ちやすくなる。
効率的にインバウンド対策を行なうにはまずニーズをキャッチすることである。
魅力あふれるコンテンツを相手に届くようにする
もう一つのインバウンド対策で成功するポイントは魅力を正確に伝えることである。なぜならいくら魅力があふれていても、外国人に知られなければ意味がないからだ。インターネットで情報を集めることは一般的であるが、サイトの言語が日本語だけだと立ち止まって貰えない。まずはサイトの多言語化から取り組むべきである。
SNSも同様だ。海外向けのアカウントを作成し、言葉だけでなく視覚的に魅力の伝わる写真や動画を多く取り入れることも効果的だ。SNSもFacebookやTwitter、Instagramなど複数のSNSを運用すると効率的だろう。
意外と盲点なのが決済サービスである。日本ではまだまだキャッシュ文化が根強いが海外ではキャッシュレスが進んでいる。クレジットカードが一般的とされているので、電子マネーやスマートフォン決済など多様な決済サービスを充実させることは訪日客の満足度アップにつながる。
今回挙げたようなポイントが合わさることで魅力あふれるコンテンツが訪日客に届くようになる。
インバウンド取り組みの実例
インバウンド取り組みの実例として、官民のインバウンド誘致事業による成果を取り上げる。
インバウンドがここまで盛り上がったのは、アジアをはじめとする新興国の経済成長に伴う所得増加が寄与しているのは確かだが、単に追い風が吹いたからというだけではない。
インバウンド隆盛の端緒は2003年、当時の小泉政権による「ビジット・ジャパン・キャンペーン」事業立ち上げにまでさかのぼる。同事業は、当時年間500万人に過ぎなかったインバウンドを、2010年までに1000万人へ引き上げようとする目標を掲げ、誘致促進に向けた取り組みを進めてきた。
2008年には観光庁も設置され、訪日重点促進国(中国・韓国・台湾・米国等)への広報活動・情報発信に取り組んできた。同時にビザ発給条件の緩和や各空港における新規就航・増便の促進など受け入れ体制の整備もすすむ。
こうした着実な努力を続けてきた結果、アベノミクスによる円安効果も追い風となり、2013年には3年遅れでインバウンド1000万人の目標を達成した。
まとめ
少子高齢化が進む日本では、インバウンド需要を取り込むことが生き残っていく術である。インバウンド需要を取り込むことの第一歩は、訪日客の気持ちになって考えることである。
日本人は相手の気持ちを読み取る能力が高い。いわゆる「空気を読む」というものだ。日本人のおもてなしの気持ちは外国人には魅力的である。公共機関の時間の正確さには定評があるし、飲食店では必ずおしぼりが提供される。
日本人が普段当たり前に思っていること自体がすでに魅力的なコンテンツなのである。そして、その土地や商品、モノなどの情報を上手に発信することができればインバウンド需要はまだまだ爆発的に伸びていくだろう。