届けるべき荷物が瞬時にわかる!? アマゾンが開発した革新的配送支援システムとは

小久保 重信(ニューズフロント記者)

大量データ収集し、AIモデル開発

 英ロイター通信によれば、VAPRのような識別支援システムはアマゾンの物流倉庫にも導入されている。同社倉庫では、自動移動式の商品棚に光を当て、商品を識別している。従業員は1カ所に留まりながら、それらの商品をピックアップしてケースに入れる作業を行っている。以前は狭い通路をカートを押して歩きながら商品を探す作業を繰り返しており、1日当たりの歩行距離は16kmに上っていたという。

 アマゾンは、顧客の購買行動や物流システムに関する大量のデータを収集して、業務に生かしている。現在は、その膨大なデータを使用して、倉庫ロボティクスから配送ルートの最適化に至るまで、さまざまな用途のAIモデルを開発している。

 同社がトランスフォーマー・アーキテクチャーを用いて、需要予測とサプライチェーン最適化のためのAIモデルの開発に着手したのは20年のことだった。22年からは倉庫内の搬送ロボットにAIトランスフォーマーモデルを追加し、ロボット同士がよりスムーズに動き回れるようにした。これらは「ゴーカート(GoCart)」と呼ぶ荷車を持ち上げて搬送するロボットだ。その多くはQRコードを用いて操作するものだが、アマゾンは22年に完全自律走行型搬送ロボット「プロテウス(Proteus)」を開発した。

 商品を梱包した段ボール箱を、荷かごに仕分ける「ロビン(Robin)」や「カーディナル(Cardinal)」も開発した。22年11月には、商品の仕分けを行うAIロボットアーム「スパロー(Sparrow)」を披露した。これは段ボール箱ではなく、商品パッケージそのものを認識する点で画期的だ。

 23年10月には、出資する米新興企業アジリティ・ロボティクス(Agility Robotics)が開発した人型ロボット「ディジット(Digit)」の運用テストを開始した。二足歩行ロボットであるディジットは、物流施設内を移動し、二本の腕で物品を持ち上げ、別の場所に移す作業を担っている。アマゾンは商品パッケージの破損状態を確認するためにもAIを活用している。人間に比べて3倍の効率化が図れるとしている。

AWS生かしてAIモデル訓練

 アマゾンは傘下にクラウドサービス事業を手がける米アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)を持つため、AIのワークロードを実行する膨大な数のサーバーを保有する。これにより自社内でAIモデルを訓練することが可能で、これがアマゾンの競合に対する強みだとされる。

 アマゾンは24年11月、生成AI開発の米新興企業、アンソロピック(Anthropic)に40億ドル(約6000億円)を追加出資すると明らかにした。同社は23年9月からアンソロピックへの出資を開始し、24年3月にはその額を40億ドルに引き上げた。今回の出資で、累計出資額は80億ドルと、倍増する。AWSは自社でAI専用半導体や開発者向け生成AI「Amazon Q」を開発している。アマゾンはこれらの技術を様々なEC業務に活用している。

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