街中華で聞いた、ナフコの意外な差別化戦略エピソード

森本 守人 (サテライトスコープ代表)
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HC放浪記

前回同様、放浪したのは金沢エリア。石川県松任市のホームセンター(HC)で買い物した後、近くの街中華へ立ち寄る。店内を観察していると珍しいメニューを発見、事情を聞くと店主は意外な開発エピソードを明かした。中華の世界も競争が激しいが、経営者としての姿勢に感銘を受けたというお話だ。(取材日:2023年12月16日)

HCとの相性がよい金沢

 金沢は「ものづくりのまち」と言われる。江戸時代、加賀藩主の前田家は文化を重んじ、優れた職人を京都から呼び寄せるなど独自の施策に力を入れた。そんな歴史的土壌もあり、今も個性ある工芸品、各種製品、農林産物を生み出し続けている。

 象徴は、JR金沢駅前に2005年3月に建てられた「鼓門(つづみもん)」。ここに来るたび「伝統と創造のまち金沢」というフレーズを思い出す。

金沢駅
「ものづくりのまち」を象徴する、JR金沢駅前にある「鼓門」

 「ものづくり」と相性がよいのはやはりHCである。そこで足を運んだのは、金沢駅から約10分の松任駅近くの「ナフコ松任店」。10年7月オープンで長らく地域に親しまれてきた店舗だ。

ナフコ
駅近くの「ナフコ松任店」で買い物した

 店内には、DIY関連や日用品、家具など生活に必要な商品が並ぶ。私は比較的コンパクトな売場を何度も回遊、じっくりと品揃えを吟味し、気になるアイテムをカゴに入れた。

 1つ目は、「ホットサンドメーカー」(税込1490円)。ナフコのプライベートブランド商品だ。家庭でホットサンドをつくって楽しむ人が多いことは知っており、以前から欲しかったのだ。トースターのような電気式もあるが、やはりまずはシンプルな直火式がよいと思った。

ホットサンドメーカー
購入した商品の1つは「ホットサンドメーカー」

 新しい道具を導入すると生活は変化する。私はHCが好きな理由はここにある。

 次は「和歌山生まれの手袋たわし」(税込405円)。最初、普通の軍手に見えた。しかしメーカーの本社所在地は和歌山県「海南市」。さらに商品には「手袋職人が考えた逸品」とのキャッチコピーが記されている。もう買うしかないと思った。

和歌山生まれのたわし
これが購入した「和歌山生まれの手袋たわし」。和歌山の家庭用品メーカーがノウハウを駆使して開発した商品だ

 海南市は古くから良質のシュロが栽培され、タワシやほうきといった家庭用品の一大産地。しかし近年、安価な海外製品に押された結果、かつての勢いを失っている。厳しい状況にあり、メーカー各社は、持てるノウハウを活用して巻き返しを図ろうと努力している。このような話を取材で聞いた経験があり、関心を持った。商品の特徴については後に詳しく説明する。

 HCは安い商品で集客することも大事だが、やはり小売業発展のため、優秀な日本製品を応援してもらいたいとの思いがある。売場では価値訴求するPOPを添えるなど、売る努力、工夫もしてほしいと願うばかりだ。

ふと目にとまったメニュー

 続いて向かったのは、JR松任駅の反対側にある「中華の丸八」。スマホで検索、評判がよさそうな街中華だったので行こうと決めていた。

街中華で食事をする
金沢エリアを放浪、JR松任駅で下車、街中華で食事をする

 暖簾をくぐると、まだ時間が早いためか、お客は私一人だった。店内はカウンターのみ。店主と、その妻と思われる2人で切り盛りしているようだ。席に着いた私はメニューに目を通し、ワンタン麺、ギョーザ、ビールを注文した。

 料理が来るまで時間があるので、さっき買った「和歌山生まれの手袋たわし」をお見せしたい。私の心をつかんだのは商品パッケージの裏面にあった「こんなところにオススメ」という使用例。「シンクを洗う」「自転車のお手入れ」とともに紹介されていた、「お墓を洗う」というシーンだ。

 私の家では定期的にお墓参りするが、実は墓石の汚れが以前から気になっていた。もちろん磨けば大体はきれいになる。しかし文字の部分だけは洗いようがない。黒いままで、解決策を探っていたものの、緊急度は低いので放置していた。そこへHCで見つけたのが和歌山の手袋である。特殊繊維を使っており、指を突っ込めば「文字の溝まで手洗いできる」という。これだ!と思った。やはり悩みを解決してくれる商品は欲しい。

和歌山生まれの手袋たわし
商品パッケージの裏面にあった使用例。そのうち「お墓を洗う」を見て、私は買うことを決めた

 さて、そうこうしている間に、ビールとギョーザが到着、続いてワンタン麺が来た。1日中、歩いたので、もうくたくたである。しかしビール、ギョーザで疲れは吹き飛んだ。さらにワンタン麺もとてもおいしく、満足した。

ラーメンの画像
注文したワンタン麺。おいしかった。

 お腹いっぱいで呆然としていたところ、厨房の上部に掲げられているメニューが目にとまった。「牛乳ラーメン」(700円)──。意外な組み合わせに驚く。注文する人はいるのだろうか。そもそも、なぜこれを作ろうと思ったのか。数々の疑問が頭をよぎる。

牛乳ラーメン
ふと目にとまったメニューの「牛乳ラーメン」。店主から意外なエピソードを聞くことができた。

 お会計の時、思い切って店主に質問してみた。すると次のような興味深い話を教えてくれた。

 創業は昭和51年。牛乳ラーメンは約30年前から出している。開発動機は、ラーメンも進化する必要があると思ったから。周辺にラーメン店が多く、競争は激しい。だから他店にはない料理を提供しなければ生き残れない。

 最初、まったく売れなかったが、ある時、テレビ番組のロケで芸能人が来て、食べてくれた。それが宣伝になり、おかげさまで看板メニューのひとつに育った──。

 これには唸った。どの業界も環境は熾烈、いつの時代も差別化への手は緩めてはいけないと感じた。

 意外な場所で聞いた、意外なエピソード。感銘を胸に、私は小さな街中華を後にした次第である。なお帰る時、店は満席になっていたことをつけ加えておく。

記事執筆者

森本 守人 / サテライトスコープ代表

 京都市出身。大手食品メーカーの営業マンとして社会人デビューを果たした後、パン職人、ミュージシャン、会社役員などを経てフリーの文筆家となる。「競争力を生む戦略、組織」をテーマに、流通、製造など、おもにビジネス分野を取材。文筆業以外では政府公認カメラマンとしてゴルバチョフ氏を撮影する。サテライトスコープ代表。「当コーナーは、京都の魅力を体験型レポートで発信します」。

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