第77回「顧客の囲い込み」という発想がショッピングセンターを衰退に向かわせるワケ
ショッピングセンター(SC)の運営でよく聞かれる言葉が「顧客の囲い込み」だ。筆者はこの言葉がどうも好きになれないし、SCを衰退に向かわせると思っている。今日は、その「顧客囲い込み」とは何かとその効果と手法、そして深刻な懸念、顧客囲い込みを考える前に優先すべきことについて解説する。
顧客の囲い込みとは何か、その効果とは
顧客の囲い込みとは、「顧客を維持し競合他店への流出を防ぐための戦略的な取り組み。その目的は自社のファンになってもらい長期的で良好な関係を築くこと」だ。このように書くと「顧客の囲い込み」はとても真っ当な企業活動であり、マーケティング目標として重要なテーマだと感じる。
顧客の囲い込みがSC運営にもたらす効果には、主に以下の4つがある。
①売上の安定化と客単価の向上
一定数の既存顧客が維持されると売上は安定し、リピート率の向上は購入金額の増加と顧客の生涯価値(LTV)を獲得できる。
②販促コストの低減
新規顧客の獲得に要するコストは、既存顧客をつなぎとめるコストの何倍もかかると言われ、既存顧客をつなぎ止めることか顧客の獲得コストの低減に効果を発揮する。
③新規顧客の獲得
既存顧客の口コミは、新規顧客を誘引する。特に今のようにSNSが発達した時代では、他者の発信により認知度が向上し、新たな顧客獲得へとつながる。
④データの取得と蓄積
安定的な顧客の存在は、購買履歴、属性、行動など補足データの有意性が高まる。一見(いちげん)さんより常連さんの情報の方が事業者にとっては有益である。
顧客の囲い込み手法
この顧客の囲い込みに関する手法は数多くあるが、大きく2つに大別できる。
①顧客の維持プログラム
一つは、他のSCへ顧客が流出しない仕組み(プログラム)を作り、半ば、強引につなぎとめる(もちろんパーミッションは必要)手法だ。航空会社のマイレージクラブなどがその典型だが、SCでも自社カードを発行し、ポイントを貯めることで自SCの利用を促す。
その他、会員限定のイベントやセールへの招待、利用額によるポイント付与率のアップ、会員向けサービスなどお得感や特別感を提供することで顧客に優越感を提供する。
また、ポイントプログラムには「スイッチングコスト」がある。スイッチングコストとは、他SCへ移転すると貯めたポイントが失われることや新たなカードへの加入手続きやこれまでのカードの退会手続きなどのかかる時間と手間のことである。サブスクサービスで「最初の半年無料」で始め、半年後に脱会手続きが面倒で継続してしまうことも珍しくない。
②顧客のファン化
2つ目の手法は、顧客のファン化である。日本ではiPhone利用者がandroidを上回るが、iPhoneユーザーに聞くと多くの人が「次もiPhoneにする」と答える。高額にも関わらず使いやすくデザインも気に入っている。カフェも「スターバックス」を選択したり、ビールも「アサヒスーパードライ」を頼んだり。企業が提供する商品やサービスが自分にとって優位性があり、信頼できるブランド力を持つ時、消費者は迷わず選択する。これが顧客のファン化であり、そこには競争力のある顧客価値の提供が絶対に必要となる。
ここまでSCの顧客囲い込みの手法や効果について説明してきた。一見、良いことづくめで、ぜひやるべきことに思える。では、SCの顧客囲い込みの何が問題なのだろうか?
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