焦点:キャッシュは王様、夏枯れ前に投資家が異例の積み増し
Josephine Mason and Thyagaraju Adinarayan
[ロンドン 27日 ロイター] – 国際的な投資家のキャッシュ保有比率が高いまま、金融市場が夏枯れシーズンを迎えようとしている。キャッシュ比率が上昇したのは、世界的な景気後退(リセッション)懸念が強まって市場に動揺が広がった昨年終盤だった。
経済的、あるいは地政学的な緊張が見られる時期にキャッシュを積み増すのはよくあることだ。
ところが各種データや有力資産運用機関への取材に基づくと、今年に入って世界的に株高の流れが続いているにもかかわらず、キャッシュ比率は異例の高水準が続いていることが分かる。
UBSアセット・マネジメントの顧客調査によると、富裕層の3月のキャッシュ保有比率は約33%で、昨年末の25%弱から切り上がった。UBSは国際的な資産配分の過去データは持ち合わせていないが、エルモッティ最高経営責任者(CEO)はキャッシュの水準は驚くほどの高さにあり、3月には米国のキャッシュ保有が過去最高になったと話していた。
ロイターの調査では、世界的なファンドの第1・四半期におけるキャッシュ配分比率は6.4%で、2013年以降の最高だった。4月になるとこの比率は5.2%まで下がったが、それでも歴史的な高水準だ。
UBSの大半の顧客は、高水準のキャッシュを維持する理由について、次の投資機会待ちや緊急事態への備えなどを挙げており、市場全体が警戒感や不透明感に覆われている様子が反映された。
UBSグローバル・ウェルス・マネジメント幹部のジェームズ・マルフォード氏は「われわれが最も頻繁に受けている質問の1つは『この景気サイクルがいつ終わるか』だ」と述べた。
またロイターのためにモーニングスターが集めたデータによると、ネットベースのキャッシュ比率が昨年終盤以降3%前後と、過去平均の2.7%を上回る水準に維持されているファンドは1000本を超える。
大手投資銀行モルガン・スタンレー、JPモルガン、HSBCの富裕層向け資産管理部門への取材でも、こうした流れが確認できた。
モルガン・スタンレー・ウェルス・マネジメントのリサ・シャレット最高投資責任者は「顧客の間ではキャッシュ水準が過去平均を相当上回った状態で推移し続けている。通常は資産の5─6%がキャッシュになるが、今はその3─4倍に上る」と話した。
投資家は、今年の株高がいつまで続くか心配している。バリュエーションが限界まで上昇したように見え、第1・四半期の企業利益が鈍化したからだ。一方で、国債利回りの低下を受けて、別の投資先をなかなか探し出せずにいる面もある。
キャッシュ保有は市場の取引を細らせるので、全般的なトレーディング活動の低下に苦戦する銀行にとってさらなる痛手になるだろう。
<動かぬ気配>
多くのアナリストは過去1カ月間、米中貿易協議の決裂などが夏枯れの時期に株高基調を崩す事態などのリスクについて、投資家はあまりにも気楽に考えているとの見方を示していた。しかしキャッシュ保有の多さは、そうした考えを否定することになる。
実際にはトランプ米大統領が今月初め、中国との対立姿勢を強めて市場を揺るがすよりも前から、投資家は常にないほどの警戒モードだったわけだ。
HSBCプライベートバンキングのチーフ市場ストラテジスト、ウィレム・セルズ氏は「多額のキャッシュの存在は、投資家が確信を持てないでいるだけでなく、今後売却を迫られるほどの規模で運用をしていないことが読み取れる。その点から株式市場は大きな調整に見舞われないというある程度の自信が得られる」と指摘した。
UBSの見立てでは、長期的にはMSCIの全世界株指数に基づく株式投資の年間リターンは7.8%に達するのに対して、1─3カ月物の米財務省証券で計算したドル建てのキャッシュのリターンは2.8%と見劣りがする。
ただし複数の資産運用担当者は、キャッシュの殻に閉じこもる投資家を積極化させるには、経済状況と企業業績が改善し、トランプ氏の保護的な通商政策が終わる必要があると説明した。
ピクテ・ウェルス・マネジメントの資産配分責任者クリストフ・ドネー氏は、それまでは投資家は動かないと予想。大半の投資家は「囚人のジレンマ」に陥っており、最適解が何もしないことになっていると付け加えた。