インタビュー:同一賃金の65歳定年、年金コスト減で可能=太陽生命社長

2019/02/19 17:30
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2月19日、政府が本格的な議論をスタートさせた70歳定年制度に対し、産業界からは雇用コスト増を理由に難色を示す声が噴出している。こうした中で異色の対応を進めているのが太陽生命だ。インタビューに応える太陽生命の田中勝英社長。15日に東京で撮影(2019年 ロイター/Izumi Nakagawa)

 

[東京 19日 ロイター] – 政府が本格的な議論をスタートさせた70歳定年制度に対し、産業界からは雇用コスト増を理由に難色を示す声が噴出している。こうした中で異色の対応を進めているのが太陽生命だ。60歳から賃金をカットした上で雇用延長を認める企業とは異なり、同一賃金で65歳まで雇用し、65歳から70歳までは嘱託社員として再雇用する制度を導入している。

 

同生命の田中勝英社長は、2017年4月から導入した今の雇用制度はうまく機能していると指摘する。事務処理の電子化による業務効率化や成果主義型の人事制度導入、定年延長による終身年金の支給開始年齢の引き上げなどが奏功し、人件費はコントロールできているという。今後は70歳への定年年齢引上げも視野に入れている。

 

──2年前にこの制度を始めた狙いは何か。

 

「社会全体が高齢化してきたため、生命保険のニーズも変化している。これまでは現役世代の世帯主が、死亡や疾病に備えるのが主流だったが、今は中高年における長生きリスクへのニーズが高まっている」

 

「このため終身介護年金保険や、認知症保険への需要が伸びている。こうした商品開発や新たな営業チャネル、相談業務などを担うには、経験豊富で知識も備えているベテランが必要だ」

 

「寿命が延びて結婚年齢や出産年齢も上がり、社会のあり方も変わってきた中で、定年だけは昭和56年(1981年)に57歳から60歳に延長して以来、30年以上変わらないままとなっていた。ライフサイクルが変化する中で、経験豊富な社員を年齢だけで制限してしまうのはもったいない」

 

「今後、社会の変化に合わせて法律が改正されると思っている。その前に先手を打って主体的に制度を導入し、自社の人員構成を踏まえて改革した」

 

──65歳まで定年を延ばすことで、総人件費が負担になることはないのか。

 

「基本的に人件費については、コストではなく投資と考えている」

 

「とはいえ、人件費は総人数と平均賃金の積算で決まると考えており、総人数が変わらなければ人件費は大きく変わらない。今後、ボリュームゾーンである50歳台の社員が60歳台となれば、若手や中途の採用を絞る必要が出てくるが、そうなる前に主体的に定年延長を導入することにより、総人数を緩やかにコントロールしていくことができる」

 

「すでに事務の効率化・IT化を約15年前から進めてきたことにより、当時は約2300人で運営していた支社の事務量を、現在では約500人で運営できるようになった。しかも保険の提案から契約、領収証の発行まで一連の契約手続きの完全ペーパーレス化を実現した」

 

──平均賃金は年齢構成が上がると、膨らむことになるのではないか。

 

「定年延長を実施することにより、終身年金の支給開始年齢が引き上がるため、人件費に与える影響は少なくなる。さらに当社はいわゆる年功序列型の人事処遇ではなく、30歳代の若手社員を責任あるポストに抜てきすることもあれば、逆にベテラン層でも能力次第では降職もありうる。成果主義型の人事処遇制度を導入しているため、社員の平均年齢が上がったとしても人件費が増えるわけではない」

 

「一方で58歳からの特別職員制度への移行や役職定年も廃止したため、評価によっては昇給・昇進する仕組みだ。一度役職定年を迎えた61歳の社員が、課長に昇格した事例もある。従業員がより高いモチベーションで成果をあげ、安心して働くことができる人事制度にした」

 

──65歳から70歳までの継続雇用制度を打ち出しているが、嘱託社員としての位置づけになっている。正社員としての扱いにはならないのか。

 

「65歳で定年を迎えると、いったん退職金を支払い、そのうえで働く意欲があり、健康状態に問題のない社員は、希望すれば改めて再雇用という形で最長70歳まで働き続けることができる」

 

「勤務体系や給与水準は、確かに65歳までとは変わる。が、能力や知見を生かした人員配置を行うとともに、健康状態に十分留意しながら雇用しなければならないと考えている」

 

「しかし、いずれは70歳定年になる時が来ると思っている。ただ、今はまだ65歳に達する社員もおらず、ひとまず65歳定年・70歳まで嘱託社員という制度がどう機能するのか検証する必要がある」

 

「いつになったら70歳定年制度を導入できるのか、コストや生産性などの見極めがついてからとしか言いようがない」

 


*このインタビューは15日に行いました。

(中川泉 金子かおり 編集:田巻一彦)

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