第1回 コロナ禍であぶりだされた「DXの本質」とは
デジタルトランスフォーメーション(DX)を成功させるためには何が必要なのか。本連載ではその本質についてローソン、ニトリなど国内外各社でで改革を成功に導いた経験のあるNice Eze代表の松浦学氏にDXの本質について解説してもらう。第1回はコロナ禍での人々のライフスタイルの変化やメディアの傾向からDXの本質を読み解く。
技術を買えば優位性が
構築されるものではない
昨年来の感染症騒動において、多くのメディアは両論併記やバックチェックをすることもなく、科学的アプローチどころか、K P I(重要業績指標)も問題とする矛先も次々と変え、演出された内容を朝から晩まで多頻度で流し続け、不安な声を強調して国民の声とした。
他方、他の情報入手手段がある人たちは旧来のメディアから離れたが、これを国民の声と言わずに「ネット民」や「若者」と定義した所に分断が進んだ根深い要因があると思われる。これらを解消するにはある程度の期間や深く考えずに明るくなれる仕掛けが必要だろう。
さて、感染症騒動を機にリモートワーク、ウェブミーティングツールの導入が進んだが、「目的や効果の最大化」を踏まえた手法を模索せず、これまで通りの段取りで、ただ、PCを通じて大多数の人が傍観しているという会議が今現在も多数見受けられる(内職には有効だが)。
このような企業はそのうち「表情が見えるから、やはりリアルの会議の方が良い」と戻すだろう。
究極の競争である戦争においては、ドローンやネットワークを駆使した戦闘となると作戦も大きく異なり、必要な訓練もこれまでとはまるで違う。火縄銃の打ち方を何年もかけて訓練してきても、戦艦大和をデジタル化しても、同じ戦術では勝てないし、金と時間の無駄となる。未来を見ずに火縄銃の良さや大和の凄さを語り、ドローンやネットワークのリスクばかり並べたてる情緒的な状態を良しとしていては国が滅ぶ。
やるべき事は未来の競争環境をイメージすること、優位性をデザインすること、捨てるものを定義すること、それを実現すべく検証や工夫、執行を続けることであり、その風土そのものが参入障壁である。単に技術を購入しても競争相手が買えば優位性は消える。
心地よい良い国
良い組織
今の組織やルールは「これまで」を続ける事において効率が良く、個人も組織もその居心地の良さからなかなか抜け出せない。組織デザイン、育成も採用も仕事の与え方も天と地がひっくり返る変化は起きにくい。
「革命は辺境の地から起きる」とはよく言ったもので、しがらみなく、目的遂行への強烈な意志で行動するからこそ成就する。生存率は高くないものの、まさにベンチャーがそうだろう(5年後生存率15%、10年後6%)。
この2年間、メディア総動員で煽った危機は企業変革を断行する大義名分としては十分であったにも関わらず、着手できなかった企業も多い。また、自身は変化したつもりでも、周辺の変化が早ければ、未来における競争優位性は担保されないのである。
感染症は一時的なものかもしれないからという言い分もあろう。しかし、デジタルトランスフォーメーションやデータを武器にという話は一時的なものではない。「ゴールを見ない、見えてもやらない」のでは顧客も従業員も取引先もストレスになるだけである。しかも、デジタルは企業改革の端緒でしかなく、多くの利害関係者が関わるフィジカルな部分、サプライチェーンの大改革を成し遂げてこそ価値が出るのである。