ジョブベースレコメンド~小売業の総合力強化のための顧客理解とCXの強化~ 顧客起点でのスマートなOMO体験の実現
SAS Institute Japan株式会社
ソリューション統括本部
松下 聡 氏
目的に応じて商品を「雇う」状況も変化
米SAS Instituteは、アナリティクス専門のシステム・コンサルティング企業であり、1200社以上の小売・消費材メーカーに対し顧客分析やレコメンド、OMOマーケティング、MD最適化計画、需要予測などの支援を行い、アナリティクスの分野で30%強のシェアを持っている。
我々が提案するジョブベースレコメンドは、クレイトン・クリステンセン教授が提唱している「ジョブ理論」の考え方をベースにしている。「顧客のジョブ」=顧客が買い物で達成したいことを理解することで、顧客にあった食体験の提案や買い物支援、さらにMDや顧客サービスなど店舗運営の最適化を狙いとしている。
ジョブは様々な状況で変化する。著書「ジョブ理論」の中のエピソードでは、マーガリンの購入に至るジョブが例として挙げられている。「毎朝忙しい家族のために、スピーディに食べられる朝食を準備したい」とか「家計を抑える」「カロリーは控えめにしたい」という目的でマーガリンを「雇う」一般的なバターの代替品としてのマーガリンのイメージに対し、食用油の代わりとして火で調理中に、「食材をうまく焦がさずに調理したい」とか、「買物の回遊を最低限にしたい」というニーズがあれば、近くの売場に配置されているマーガリンを「雇う」というケースが発見されている。
この場合、競合はバターではなく食用湯やテフロン加工の調理器具、火の通った総菜や調理済み食材となり、メーカーや店舗の戦略は異なってくる。
顧客コミュニケーションの高度化で利便性を提供
つまりどういう目的でマーガリンを「雇う」のかで状況は変化する。ジョブ起点のレコメンドでは、顧客起点のレコメンドに加えて、ジョブ解決の視点で精緻に訴求していくのが特徴。各顧客の購買履歴から買いそうな商品を訴求する顧客起点の1to1レコメンドに対して、ジョブ起点の1to1レコメンドは、各顧客の想定ジョブから買いそうな商品や組み合わせを推薦し、商品を「雇用」したジョブ解決を訴求するわけだ。
例えば共働き・未就学児童を育児中の主婦のケースでは、仕事帰りに買物をして子供がおいしく食べてくれる夕食を手早く用意したい。たまたま生しらすの売場に行くと、刻みネギや刻みショウガで作る簡単しらす丼のレシピを案内する。一人暮らしのグルメな男性顧客は、仕事が早めに終わって買物。今晩は旬の食材で晩酌したいと思えば、同じ生しらすの売場に行けば、簡単に作れるツマミのレシピや限定入荷の日本酒を紹介するというような状況の違いによりメッセージを最適化する。
このようにデジタルでの顧客コミュニケーションの高度化を通じて、利便性や食体験の向上の機会を提供することで店舗CX強化を目指していく。同時にデジタル接点の強化によって商品探しや清算などの買物行動のセルフ化も進められれば、店舗スタッフを高付加価値業務にシフトし、顧客理解を軸にサービス・MDの改善を進めることも可能になるだろう。
各種分析ツールでデータ利活用の取り組みを支援
実際の分析プロセスは、まず「ダイエット」「簡易調理」「子育て」などの商品DNAを定義。バスケットの中の商品DNA構成・曜日・時間帯の情報から顧客のジョブを識別する。
これらをもとに、ジョブを理解した上での来店誘致や来店時の接客につなげるために、顧客プロファイリングによって「平日夕方に子供用お菓子や加工/味付け済み食材を選んでいる顧客に対し、忙しい育児中の主婦向けの時短調理キットを勧める」「さらに価格敏感型だと分かれば、マークダウンされたお惣菜を勧める」などといったレコメンドシナリオを設計する。さらにこうしたレコメンドは、顧客シナリオに基づき最適なコミュニケーションを自動で実行できる。
ジョブベースレコメンドの仕組みを構築するために、SASでは「SAS Viya」や「SAS Customer Intelligence360」といった分析ツールを提供している。そして“Small Win”の実証実験を起点にPDCAサイクルや機械学習の循環・連動を行うことで、データを利活用した循環型としての企業活動を成長させていく取り組みをサポートしていく。