キリンビール 店頭で気付きを与えるラストワンマイル広告 「LINE POP Media」の可能性
来店すると、店頭に並んだ商品のお得な情報がユーザーのスマートフォンに届く。2022年6月にリリースした「LINE POP Media」は、DX(デジタルトランスフォーメーション)時代の新たな販促施策として注目されている。リリース前のテスト期間中に「LINE POP Media」を店頭でのキャンペーン告知に活用したキリンビールの野際陽介氏、LINEの販促領域のサービスにおける戦略を担う渡邉祐貴氏に、同サービスの特徴と導入の背景、今後の展望について話をきいた。
発泡酒が抱える店頭課題の解決に
「LINE POP Media」が寄与
―― はじめに、今回キリンビールが実施したキャンペーンの概要と背景についてお聞かせください。
野際 2020年10月、ビール類カテゴリーは酒税改正があり、新ジャンル(第3のビール)は値上げ、ビールは値下げする中、私が担当する「淡麗ブランド」をはじめとした発泡酒は現状維持という状況にありました。そこで、新規飲用者の獲得をはじめ、発泡酒の間口を広げて飲用者を増やすことを目的に、「キリン淡麗 おいしさ実感キャンペーン」を企画しました。
キャンペーンは、「商品に付いている応募券等で応募する」といった従来型の施策を実施しましたが、今回、新たな取り組みとして「LINE POP Media」を活用したキャンペーン認知施策を実施しました。ドラッグストアのウエルシアグループ様の対象店舗に来店すると、LINE Beaconを通じて、ユーザーのLINEのトークリスト上部へのキャンペーン告知バナーの配信やLINE公式アカウントを通じたメッセージを配信(※)。バナーもしくはメッセージからキャンペーンサイトにアクセスし、ブランド体験としてキャンペーン情報を閲覧するとLINEポイントがもらえる施策となっています。店頭でのバナーやメッセージ配信によりキャンペーンを認知し、その後、商品を購入してもらうという狙いがありました。
※LINE Beaconの利用同意を得ているユーザーが対象となります。
―― 「LINE POP Media」のサービス概要と開発背景について紹介ください。
渡邉 「LINE POP Media」はLINE Beaconを活用した、店頭のアナログPOPや店頭配布のチラシを代替するデジタルPOPソリューションです。デジタル広告は、ユーザーの興味カテゴリーなどでのセグメント配信が可能ですが、「LINE POP Media」の特徴は、“店頭”というまさに買い物直前のユーザーにアプローチし、新商品やお得なキャンペーン情報を伝えるためのサービスです。店内でLINEを開かなかったユーザーにも、退店後にメッセージに気づいてもらうことで次回来店時はLINEを開くモチベーションを高めてもらう、といった工夫もしています。
「LINE POP Media」を開発した背景の一つに、小売業界の人手不足問題があります。人手不足によってメーカーから販促物を送っても設置に至らない場合も多く、メーカーとユーザーの接点は減少しています。コロナ禍で来店頻度や店頭滞在時間が短くなる“計画購買”が進み、よりメーカーのユーザー接点がつくりにくくなっています。
他にも、人口減少による将来的な小売業自体のシュリンクが懸念されることを踏まえ、小売業の新たな広告収益モデルとしての側面も持つ(※後述)「LINE POP Media」の開発に着手しました。現在はテスト期間中で2022年1月以降のリリースを目指して準備中です。
―― 「LINE POP Media」をキャンペーンに活用したきっかけはなんでしょうか?また、その狙いや設定していたKPIがあればお聞かせください。
野際 新規ユーザー獲得にあたり、「淡麗ブランド」には大きく2つの課題がありました。一つは、ビールや新ジャンルに比べ、発泡酒は市場規模や価格などの兼ね合いから、通路沿いなど目立つ位置での店頭展開が実現しにくいこと。もう一つが、定番商品が並ぶ棚でも、なかなかお客様の目にとまりにくいことです。
TVCMをはじめとしたマス広告を実施して認知や購入意向が上がっても、店頭で目に入らなければ実際の売上にはつながりにくい。そこで今回、店頭での気付きを促す手法として「LINE POP Media」の仕組みに魅力を感じ、実施を決めました。 KPIについてはやはり売上が一番重要な指標のため、売上の伸長率を目標に掲げました。
―― 実際に「LINE POP Media」を活用したキャンペーンの成果についてどうお考えですか?
野際 定量的な面でいうと、「LINE POP Media」を実施したエリアに関しては売上が上がる実績が出ており、キャンペーンについて一定の効果があったと考えています。
また、施策後に実施したアンケートの結果を見ると、「LINE POP Media」で広告を受信したユーザーのうち61%が広告を認知し、購買意向も上がっていることから、定性的な意味でも効果があったと思います。
渡邉 アンケートは実際に対象店舗内でLINE Beaconのシグナルを検知したユーザーに配信される仕組みです。アンケートをみると、キャンペーン認知や商品の購買意向が一定数上がっており、キャンペーン成功への貢献が実証できたと言えると思います。「次回もお得な情報を受け取りたい」という回答割合も高かったことから、店頭のユーザーに「LINE POP Media」サービス自体が受け入れられたことも嬉しく思っています。
野際 従来のアナログPOPで伝達できるメッセージには限度があり、店舗の大きさによっても展開の度合いはバラバラです。「LINE POP Media」の最大の魅力は、メーカー側が伝えたいメッセージをユーザーが来店し、買い物をするタイミングに伝えられる点にあると思います。
―― 「LINE POP Media」を活用することで、メーカーや小売業にとってどのようなメリットがあると思われますか?
渡邉 デジタル広告は、受け取るタイミングや内容がユーザーにとって心地よい体験であることが重要です。その体験設計を間違うとノイズとして受け取られてしまいます。その点、「LINE POP Media」は来店したタイミングで、その店舗が扱うユーザーの興味に合う商品の情報を受け取れる、という点にこだわって設計しています。ユーザーに受け入れられる形でブランドコミュニケーションやキャンペーン訴求ができ、購買に繋げられる、ということがメーカーの最大のメリットだと考えています。
小売業にとっては「LINE POP Media」に参画することで、メーカーの販促施策の最大化を実現することができ、客単価アップやカテゴリー売上の向上が見込めます。さらに広告収益は小売企業へも分配される仕組みのため、新たな収益軸となることも大きなメリットです。コスト面では、アナログPOP等の設置オペレーションの省力化につながることも期待できます。
―― 「LINE POP Media」の今後の展望についてお話ください。
渡邉 現在はテスト段階のため「LINE POP Media」を実施できる店舗が少ないですが、コンビニエンスストア、食品スーパーマーケット、ドラッグストアを中心に約10万店舗を目標に参画店舗を増やしていきます。
また、バナーのクリエイティブフォーマットも進化させていく予定です。現状はテキストとアイコンのみが表示されるかたちですが、忙しい買い物中のユーザーの目にも留まり、見た瞬間にその商品の棚へ向かいたくなるような広告表現を目指します。
将来的にはLINEが保有するユーザー属性や興味情報はもちろん、キャンペーン参加情報や購買情報等を基に、ユーザー一人ひとりがほしいと思う情報を受け取れるような進化を目指していきます。さらに「LINE POP Media」を皮切りに、”Retail Media”のメニュー拡充も視野に入れ事業展開予定です。
―― 最後に、キリンビール様が今後のLINEに期待することについてお聞かせください。
野際 広告フォーマットのリッチ化については非常に期待しています。今回の施策ではバナーやLPのクリエイティブに情報を詰め込み過ぎてしまいましたが、次回は店頭で受け取った際にユーザーが負担に感じない内容・情報量を、新しい広告フォーマットに合わせて模索していきます。
また、このような新たな取り組みでは特に効果検証など試行錯誤の連続ですが、実施した施策の効果がどうだったのかを分析することで、どこがボトルネックだったのかデータで可視化し、仮説を立てて次に活かしていくことが大事と考えます。LINE社とは効果を測る共通指標を持ち、施策効果を一緒に見ながら継続的に改善していけることを期待しています。
これまでのTVCMや動画広告を流して店頭でアナログPOPをつけるだけではなく、「LINE POP Media」のようなイノベーションも活用しながら、お客様の買い物体験をより良くできるよう、価値のある情報をお届けし、小売、メーカー共に実施価値を感じられるようなキャンペーン施策を今後も検討していきたいと思います。