原料調達から売上予測まで 衛星データの活用は食ビジネスをどう変えるか?

2025/06/19 05:00
中村 友弥 (宇宙ビジネスメディア「宙畑」編集長)

衛星データの活用事例②
原料調達リスクの把握

 次に紹介するのは、原料調達における衛星データの活用事例だ。

 衛星データを使えば、海外から原料を輸入している企業でも、現地に赴くことなく、調達先の生産状況や管理の状況を把握することが可能になる。

 たとえば日清食品ホールディングス(東京都/安藤宏基社長兼CEO)では、カップヌードルなどのインスタント麺の製造に使用されるパーム油の調達において、原料となるアブラヤシ農園周辺の森林や泥炭地の破壊リスクを検出・分析するために、衛星データを活用している。

 また、ファーストリテイリング(山口県/柳井正会長兼社長)も23年に、衣料の原料であるカシミヤの生産が土地の利用状況や生態系に与える環境負荷を重視し、調達先であるすべての牧場における植生の状況を衛星データで解析していることを報告している。

 このように、持続可能な原料調達を実現する手段として、衛星データの活用は今後さらに重要になるだろう。

衛星データの活用事例③
農地や工場候補地の選定

 衛星データによって、土壌や作物の状態がわかるようになると、品質の高い農作物をより多く育てられる圃場の候補地を探すことも可能になる。

 地球温暖化や人手不足の影響で、収量が落ち始めている農作物も出てきている。こうした喫緊の課題に対し、質のよい新たな農地の開拓はひとつの解決策となりうる。

 実際に、衛星データを使った土地評価コンサルティングを行う天地人(東京都/櫻庭康人社長)は、地表面温度や土地の傾斜などを衛星データで分析し、“ポテンシャル名産地を探す”と銘打った実証実験を行っている。キウイや米といった作物の、まだ見ぬ適地を発掘する試みだ。同社はJAXAの知的財産や知見を活用する「JAXAベンチャー」認定企業でもある。

 こうした衛星データの活用は、農業分野にとどまらず、幅広い産業での土地選びや立地選定にも応用されている。たとえば海外で新たに工場や施設を建設する際、現地に赴く前に衛星データを使って、その地域の自然災害リスクやインフラ損壊リスクを把握することが可能だ。こうしたリスクを事前に確認することで、事業に不向きな土地を選ぶリスクを避けられる。

 実際に、AI技術を活用したコンサルティングを手がけるRidge-i(東京都)は、宇宙産業との連携を支援するデジタルブラストコンサルティング(東京都)、および大手ハウスメーカーのフジタ(東京都)と共同で、企業の海外拠点開設を支援することを目的とした衛星データ活用サービスの検討を開始している。

 原料の生産量や品質が売上や利益に直結する工場やプロセスセンターを国内外に持つ小売業にとって、衛星データの活用は検討に値する取り組みだろう。

 

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記事執筆者

中村 友弥 / 宇宙ビジネスメディア「宙畑」 編集長
2017年に宇宙に特化した宇宙ビジネスメディア「宙畑」の立ち上げに関わり、18年に宙畑が衛星データプラットフォームTellusのオウンドメディアとなったタイミングで編集長に就任。19年には宙畑の立ち上げメンバーとsorano me(城戸彩乃社長)を共同創業し、宇宙技術の利活用促進に従事。著書に『宇宙ビジネス』(クロスメディア・パブリッシング)がある。
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