米国ではインフレが鈍化傾向にあるものの、依然として高い水準にある。それに対応するため、流通大手はデジタルを活用したオペレーション効率化に引き続き注力し、収益改善を図っている。
インフレへの対応でオペレーション効率化
米国経済は持ち直しを見せており、個人消費の好調に伴って小売売上高も2023年後半から堅調に推移している。その背景にはインフレ(消費者物価の上昇)が鈍化傾向にあることが挙げられるものの、依然として高い水準にある(図表①)。このインフレが引き続き商品価格や賃金の上昇を引き起こすことが予想される。
この景況感のなかで小売業では、他業種との比較で人手不足が問題視されている。米国では2021年以降、小売業の欠員率は全産業の合計を下回ってはいるものの、全産業の求人数の約1割を占めており、人手不足の影響は甚大である。欠員を満たせない一因としては、日本と同様に低賃金が挙げられている。
小売業の求人が満たされない状況下で注目されているのが、新しい技術や設備の導入による省人化である。オペレーションを効率化させる設備投資を行うことで生産性の向上を図り、人手不足への対応を試みる企業が目立ってきており、その内容は多岐にわたっている。
いよいよ浸透か?スマートカート
人手不足が問題視されている米国小売業では、その解決策の一つとしてスマートショッピングカート(スマートカート)が注目を集めている。スマートカートとは、画像認証スキャナーや重量センサー、ディスプレー端末が搭載されたショッピングカートで、顧客がカートのなかに商品を入れる際にスキャンされ、会計時は専用レーンの通過で即時決済が可能となるデバイスである。
小売企業にとっては、キャッシャー(レジ係)の省人化、買物客にとっては即時決済などの利便性がある。大手企業では、アマゾンが自社開発の「ダッシュカート」を展開しているが、他の小売企業にも広がりをみせている。
現在、導入が進んでいるのが、テックベンチャーのケイパー・AIが開発した「ケイパーカート」である。同社は2021年10月に買物代行・宅配サービスを提供するインスタカートに買収され、その後同社が提携している小売企業での導入が進んだ。
大手企業による試験的なものとして、ニュージャージー州等で320店舗を有する「ショップライト」や、同社の傘下でニューヨークに4店舗営業している「フェアウェイ・マーケット」、中西部で115店舗を運営する「シュナック・マーケッツ」での例がある。カリフォルニア州で20店舗を展開している「ブリストル・ファームズ」や、コネチカット州等で7店舗を有する「ゲイスラーズ・スーパーマーケット」は、全店での本格展開となっている。
小売における省人化技術が、その導入のしやすさから大手企業にとどまらず、中小規模の企業にまで広がっていることがうかがえる。
その効果として、これらの企業は、顧客の満足度やロイヤルティ向上に加えて、購入点数の増加に伴う売上増も挙げている。その理由として、以前は他店で購入されていた商品を、価格や品質の優位性をスマートカート経由で効果的に訴求することで自社での購買に切り替えることに成功していることが考えられる。
スマートカートは利用時に会員情報を連動させることから、カート内に入れられた商品に付随して、過去の購買履歴に基づいた販促品を端末に表示することで効果的に商品訴求が行える。さらに、アプリ内で事前に作成した買物リストを連動させることで、買い忘れを防ぐことにも役立っている。
日本ではディスカウントストアを展開するトライアルホールディングス(福岡県)がスマートカートの導入を進めており、利用率は全顧客の約半数に上っている。セルフレジではレジ待ちや、その作業自体に煩わしさを感じる顧客が存在するが、カートのなかに商品を入れるという自然な動作によって顧客と企業の双方でメリットが享受できる仕組みは、今後拡大する可能性が大きいと考えられる。