ロボットや AI分野における技術力の背比べといった印象が強かった流通DX(デジタル・トランスフォーメーション)関連の展示会だが、2022年に入り、流通小売業の課題解決につながるような提案が目立ってきている。先端技術の小売適用の可能性を模索する段階から、現実的なソリューションへとベンダーの開発テーマが昇華されていったものと考える。本稿では「リテールテックJAPAN 2022」で見られた、注目すべきテーマとして「骨格分析」を取り上げ、その可能性についてまとめた。
“骨格分析”が可能にすることとは?
人にフォーカスした画像解析「Human Sensing AI」を開発する、東京大学発スタートアップのLIGHTBLUE TECHNOLOGY(東京都/園田亜斗夢社長)の展示ブースでは、商業施設、製造物流、公共施設、建設現場など、すでに防犯(監視)カメラが存在する場所にAIを提供して現場課題を解決する取り組みを紹介していた。
2022年現在、画像解析のソリューション提供をうたう企業は数多い。同社の場合は複数の画像解析を組み合わせ、リアルタイムに分析できることが強みのひとつになっているという。
たとえば製造工場であれば、作業担当者の骨格検知(姿勢や顔の向きなど)と、製品の状態の検知とをリアルタイムで組み合わせることによって、工程ごとにそれぞれの担当者が作業に何秒要し、どういう状態のものが作られているのか、画像解析を通して分析することが可能だ。すると、作業担当者の苦手な作業の骨格分析ができ、体の使い方をどう変えれば作業効率を高めることができるのか、といった技術指導に生かすことができる。
レースカーの速度に匹敵するフェンシングの判定にも使用できるレベルの解析技術というから、通常のヒトの動きであれば問題なく検知できるという。いうまでもないが、店内での品出し作業、プロセスセンターや店内での総菜加工の現場でも応用することが可能だ。
そして、同じ内容の解析をするのにコストを大きく削減できるというのも同社の強みだ。カメラを数多く設置し画像データを多く取得すれば、それだけさまざまな解析が可能になる。しかしその分、解析に必要なデータ量が多くなり、ハードへの負荷も大きくなってしまう。そのため処理能力の高いマシンが必要になるが、それに伴いコストもどんどん高くなる。同社では解析に必要となるデータ量を軽量化し、ハードへの負荷を小さくするスキルにも長けているという。
ある商業施設での導入事例だが、数百万円必要になるといわれていた人物検出・トラッキングシステムの開発費用を、同社によって数十万円レベルにまで引き下げることができた。さらに「新たにカメラを設置しなくても、解析したい映像を撮れる画角であれば、積極的に既存のカメラを利用する」(同社企画・大野朋也氏)ということだから、新規の追加投資を抑えられるというメリットもありそうだ。
トイレ内のトラブルも監視可能に
画像認識による顔認証はプライバシー保護の観点からも応用範囲が限られるが、個人特定の難しい骨格分析であれば、応用分野も広がってくる。例えば、不特定多数が利用するものの防犯カメラの設置が難しいためトラブルにつながることも多い、コンビニや食品スーパー、商業施設、公共施設などの個室トイレでの課題解決にも応用可能だ。
こうしたニッチな分野に着目し、22年末のリリース予定でトイレ内異常監視システム「Xeye(エックスアイ)」の開発を進めるのが三協エアテック(大阪市/加来裕生社長)だ。「故意にトイレを汚す、設備を壊すなどの迷惑行為」「トイレットペーパーなどの備品の盗難」「発作や急な体調不良による緊急事態」といった個室トイレ内で起こる問題を、お客のプライバシーに配慮した骨格分析により解決することをめざしている。
「Xeye」では、骨格分析の技術を使ってトイレ内の最小限の動作情報を取得し、予め学習させた行動パターンと照合することで、「便器の外で立ち止まって用を足す」「突然、倒れてしまった」といった個室内における異常な動作の検知が可能だという。そのため適切なタイミングでの対処が可能となり、スタッフの負担軽減も期待できる。異常の通知はメッセージのみ。動作情報そのものは店舗スタッフには知らされない。
天井裏に設置するための穴をあけることができれば、既設のトイレでも取り付け可能。あとは電源とWi-Fi環境があればよい。「スマホや財布など忘れ物の検知や、万引、盗難防止にも応用できるようにしたい」(開発部技術管理室室長・古橋憲治氏)。同社では6月くらいをめどに実証実験に入る予定で、現在協力企業を募集中だという。協力企業は、当面無償で利用することができる。