緊急事態宣言による外出自粛で、食シーンは一気に内食に向かいました。制約された暮らしの中で、多くの人は食事こそが最大の楽しみになったかもしれません。この間、スーパー各社は商品の安定供給や従業員の安全確保に忙殺され、チラシ配布も休止せざるをえない状況でした。それでもSNSやHP(ホームページ)を通じて内食を楽しむための情報発信を続ける企業がありました。今回はその取り組みを取り上げます。
内食を楽しもうという機運
「内食を楽しもう」という気運は、店側のプロモーションで醸成されたわけではありません。ステイホームの当然の帰結であり、テレビでもSNSでも、料理人や著名人のレシピ紹介が盛んにされるようになりました。リモート飲み会、リモート帰省など、ちょっとしたごちそうシーンも内食で楽しむ傾向が生まれました。
2月の末頃から、スーパー各社は安定供給を続けることに懸命でした。備蓄や感染予防の需要は今も高く、店頭ではカップ麺は何個まで、納豆は何個までといった制限がかけられたままです。同時に外出自粛が長期化する中、家庭での食事を楽しみたいという欲求も高まり、新しいメニューへのトライやリモートパーティーの広がりにつながっているようです。楽しい内食の実現を、それも遠出をせずに叶えたいわけですから、スーパーの出番です。生活者の期待は、備蓄だけではありません。
ビオセボン、朝食提案でオートミールの売上10倍
東京・神奈川でオーガニックスーパーを運営するビオセボン・ジャポンは、急増する需要に直面して通常のスーパーと同様、安定供給に追われてきました。中には売上が前年比1.5倍に伸長した店もあるといいます。
とはいえオーガニックを中心とした専門的な品揃えですから、備蓄需要だけで利用客が増えているわけではありません。最近のカード会員の増加について、岡田尚也社長は次のように分析します。
「自宅で過ごす時間が増えたことや、外食から内食という流れに加え、食生活そのものを見直そうという気運が高まっているようです。ライフスタイルの変化を感じます」(岡田社長)
コロナ禍で健康意識が高まれば、食生活への関心も高まるのは自然なことかもしれません。オーガニック市場は健康意識の向かう先として、そのポテンシャルを一段と発揮しそうです。
オーガニック食品の需要拡大には、利用者の興味関心を高めることが何より重要でしょう。興味関心を引き出すには情報が必要です。ビオセボンは店頭での取り組みに加え、自社HPやインスタグラムなどのSNSを通じて情報提供を続けています。
そうした事例の1つが、GW中に発信した朝食提案です。オーガニックのオートミールを軸としたもので、取り上げた商品は売上が10倍に跳ね上がったそうです。
商品部の今井顕輝部長は、「行動範囲が制限される中でも、生活を楽しみたいというニーズは確かにあります。行ける範囲にある店での提案は、今の時期だからこそ生活者の心に強く刺さるようです」と言います。
SNSで発信 コロナ後も見据えた試み
安定供給や混雑緩和を理由に、多くのスーパーではチラシ販促を中止しています。折込でもウェブでも、チラシは利用者に向けた最も重要な情報ツールですが、それを封じられたからといって店からの発信手段が全て断たれたわけではありません。LINE、インスタ、FacebookなどSNSを通じた情報提供に多くのチェーンが取り組んでいます。
販促目的のチラシとは異なり、SNSではその特性上、共感を得ることが主目的になっているようです。今の状況下では、「内食を楽しむために」が重要なテーマです。
ヤオコー のFacebookページには、オリジナル商品の紹介が頻繁にアップされています。その特徴やアレンジレシピを紹介するイラストがいい感じです。同社が長く取り組んできたオリジナルレシピの紹介のために、「ヤオコーレシピ by Cooking Support」というサイトも運営しています。
ライフコーポレーションは、SNSや自社HPでレシピ動画の配信に力を入れています。動画レシピサービス「デリッシュキッチン」と提携した取り組みです。Facebookには「おうちで元気に!」のテーマでレシピだけでなく簡易マスクの作り方も投稿しており、現状の「困りごと解決」に貢献しようという意志が伝わります。
カスミはSNSの取り組みが早く、Facebookの運用は8年前に開始しています。レシピ動画の投稿も以前から続けてきましたが、5月7日にはメニュー提案のライブ配信がスタートしました。店頭でのイベントが難しい現状で、顧客とリアルタイムに双方向のコミュニケーションを行うための試みです。
カスミの動画はライブ後も閲覧可能で、店頭のサイネージでも放映します。ライブ配信は月2回を予定、メニュー提案以外にも健康情報や地域情報を取り扱うそうです。
新型コロナの影響で、当面は内食志向が続くはずです。これを機に内食の魅力を伝えることは、スーパーにとってコロナ後の事業にも関わることです。魅力を伝える方法も、チラシ一辺倒から変わるべきであることは以前からの課題でしたが、顧客の行動変容により、SNSを活用した工夫が進みそうです。