「その商品が安いかどうか」の判断は、何と比べるかで決まる相対的なものです。目下、競合に対してどれほど価格を頑張っても、過去の自店の価格を覚えている多くのお客からは「以前と比べると・・・・」と思われてしまいそうなインフレ局面です。だからお客が価格だけを見ているうちは、食品のように日常的な商材になるほど節約志向が強まるのかもしれません。しかし価格が上昇したとしても、それ以上に顧客の満足度が高まることはあります。品質への満足度、つまりコストパフォーマンスを評価される場合です。インフレ環境下でコスパ訴求を試みる最近の工夫を取り上げます。
品質への訴求を強めた「ベイシアプレミアム」
ベイシア(群馬県)は3月に入ってプライベートブランド(PB)戦略を一新、「ベイシアプレミアム」の展開を始めました。プレミアムといっても、以前より高価格帯に振るわけではありません。第1弾の46品はもともとある既存品のブラッシュアップで、価格も変えていません。
このプレミアム路線は、従来の反省から生まれたといいます。低価格のイメージが浸透している一方、品質に対するこだわりが伝わっていない・・・・というものです。
新PBの開発プロセスには外部機関の評価を加え、品質の担保としています。ただ、より抜本的に改めたのは品質のアピール方法です。目を引くようなパッケージデザインに変更し、店頭での露出を高めました。売場で商品の存在をしっかり認識してもらったうえで、各商品のセールスポイントをバイヤーの「目利き」として情報発信します。
相木孝仁社長は、PBの「安さは維持する」と明言します。そしてプレミアムとは「高級・贅沢ではなく、高品質・特別な生活必需品を、お求めやすい価格で提供すること」といいます。まさにコスパの追求です。「特別な」と言及するのは、オリジナリティのある「尖った商品」(相木社長)を増やしていくということです。
PBのアピールポイントを低価格だけでなく品質にも向ける。このコスパ戦略は、ベイシアに限らず今のPBの基本路線となっています。
有名ブランドと自社商品を比べて欲しいイオンリカー
コスパのアピールには、比較対象を設定するのも分かりやすい方法です。イオンリカーが3月3日に開設した市ヶ谷店(東京都千代田区)は、路面店における都心モデルで、とにかく「酒類LOVER」の嗜好に特化したといいます。
同社のワイン売場は通常、グループのコルドンヴェールによる輸入ワインを中心に構成しますが、今回はワインLOVERに名の知れたブランドを集めました。中心価格帯は、従来の路面店が1500円前後のところを、2000~3000円台に設定したそうです。ウイスキーも同様で、世界中から知る人ぞ知るブランドの調達に努めるといいます。
しかし直輸入のワインやウイスキーの販売を諦めたわけではありません。とはいえ、未出店エリアで認知のない自社ブランドを大量陳列したところで、酒類LOVERが手に取ってくれるわけでもありません。そこで、酒類LOVERに知られたブランドと、産地や特徴などで相対する自社商品とを比較するPOPを用いて提案しています。
このPOPで重要なのは、価格の安さを強調していないことです。値段の差など、酒類L LOVERはさして問題にしません。相対する2つの商品を比べたうえで、その品質に納得してもらう。それができてこそ、コスパを認められます。
イオンがコスパで奨める国産&無凍結タコ
コスパは、相対するものより安いときだけ高まるわけではありません。イオンリテールが3月10日から関東・山梨で販売を開始した水ダコは、輸入ダコとの価格差の縮小に商機を見出した仕掛けです。
産地におけるタコの不漁や円安その他のコストアップ要因で、モーリタニア産のマダコは相場が上がりました。国産との価格差が縮まったこのタイミングで、北海道・青森・岩手で水揚げされた水ダコを、宮城県石巻市の加工場を経由して商品化する新たな調達ルートを構築しました。
この水ダコ、訴求ポイントは「国産」であることに加え、水揚げから店頭まで「無凍結」の素材を加工している点です。商品名に「水揚げから一度も冷凍していない」と冠し、「蒸しだこ」と「炙り焼きだこ」の2品を商品化しました。グラム単価ではなお輸入品よりも高価ですが、国産&無凍結の付加価値も相まってコスパを訴える商品です。
価格を下げるためのコスト削減というと、もはや骨身を削るほど過酷な減量のようで重苦しい感じがします。しかしコスパを高める競争にはいろいろな視点やアプローチがあり、創造性があります。23年の食品市場の打開策として、さまざまな工夫が出てくるはずです。