「黒い吉野家」が新たに取り込んだ想定外の顧客層
「黒い吉野家」に私が取り入れたのは、インダストリアルデザインの要素です。壁や天井はオフホワイトを基調にし、黒いアイアン素材のアイテムをアクセントに使いました。木材にインテリアやグリーンのナチュラルなテイスト、優しいトーンのファブリックをあしらうことで、カフェのような雰囲気にデザインしました。
シニア女性が「吉野家デビュー」
店内写真だけをみれば、誰もこれが吉野家だとはまず思わないでしょう。あたりが暗くなると、黒ベースの看板にオレンジのロゴマークと白文字の店名が夜景にくっきりと浮かび上がり、ひききわインパクトがあります。現在、全国約30か所に「黒い吉野家」が進出して各地で話題となり、今後さらに増えていく予定です。
「黒い吉野家」に対するメディアやSNSの反応はさまざまです。
「あの吉野家がおしゃれなカフェみたいに変身!」
「その辺のカフェよりもクオリティが高い!」
「ケーキやドリンクバーまである!」
「各席にUSBポートやコンセントがあったWi-Fiも飛んでいる!」
――などなど、ターゲットである若い男女を中心に大好評です。
驚いたのは、まったくノーマークだった60~70代のシニア女性が来店したことです。この世代の女性は、若い世代と違って牛丼チェーンに入ることに抵抗があるので、従来の吉野家ユーザーではありません。
「黒い吉野家」が吉野家デビューとなったシニア女性も多く、実は彼女たちは吉野家で食べてみたいというニーズを秘かに持っていた潜在顧客だったのです。シニア女性以外にも、今まではなかった女性のおひとりさま利用やテイクアウトも増えており、「黒い野家」は高い収益を上げています。
同じ野家チェーンでも、看板の色や店舗の空間デザインをがらりとイメージチェンジしたことで、潜在顧客のニーズを掘り起こすという副次的な効果を生み出すことに成功したのです。
こうして「黒い吉野家」が大きな話題になり成功しているのも、「オレンジの吉野家」の認知度が日本全国に浸透していたからこそ。その対照的な存在としての意外性が際立つのだと思います。「黒い吉野家」はまだまだ進化するかもしれない未知のパワーを秘めた存在です。
大切なのは、「オレンジが決まりだから、ほかの色なんてありえない」と、ひとつのブランドイメージに固執するのではなく、自らのブランドイメージの殻を打ち破っていく革新的なチャレンジ精神だと思います。