帝人の「食事業」が新たなフェーズに突入した。2022年10月に子会社化した帝人目黒研究所を、機能性食品素材事業で扱うプロバイオティクス製品の開発製造の拠点とし、機能性食品素材事業推進班も「ビオリエ事業部」へ改称。メーカーとしてのポジションを確立し、新たな収益源として、成長を加速させる。
繊維から始まった多角化
帝人といえば、祖業は繊維メーカー。そこから、化学繊維、医薬品事業、炭素繊維事業と事業を多角化。「未来の社会を支える会社」を長期ビジョンに掲げ、企業として一つの枠に収まらない挑戦を続けている。
機能性食品素材事業は、そうした方針のもと、ヘルスケア事業とマテリアル事業の人材や知見を活かした新領域として2016年に発進。オーストラリア連邦科学産業研究機構が開発した大麦「バーリーマックス®」の試験販売からスタートしている。
繊維や樹脂はもちろん、医薬からITまで、帝人がカバーする事業ドメインの範囲は多岐にわたるが、「食」は未知の領域。起案者でもある、帝人ビオリエ事業部長の北薗英一氏は、「新たな技術を求めて世界を巡回している中で、当時、シリコンバレーで食が注目されつつある予兆を感じた。そこで帰国後の2013年、3つの案を提示したが、最後に示したのが食だった」と振り返る。
発足10年を前に体制を強化
起案時から数えると約10年、帝人の機能性食品素材事業は着々と前進し、次なるステージを目指すフェーズに入った。これまでは、バーリーマックス®に始まり、水溶性の食物繊維「イヌリア®」、乳酸菌UREX®や乳酸菌LGG®ビフィズス菌BB-12™などの素材および製品を、海外メーカーとの販売代理店契約などで仕入れ、複数チャネルで販売してきた。
2020年からは、科学的なエビデンスのある機能性素材を提供するサプライヤーとして、「バイオ(Bio)のソムリエ(Sommelier)」という意味を込めた「ビオリエ(Biolier)」ブランドを制定。ヘルスケア事業とマテリアル事業で培った知見やノウハウをふんだんに活用しながら、「腸内改善」をキーワードに、未病の予防につながる、より質の高い機能性素材を提供してきた。
給食向けのパンや大手サンドイッチチェーンでのドレッシング、コンビニで販売されるおにぎりなどで使用されるなど、後発ながらもじわじわとその裾野は広がっている。乳酸菌市場へは、膣内フローラに寄与し膣内の調子を整えるという女性向けの乳酸菌UREX®を展開するなど、独自性にもこだわりながら、同社ならではのチャレンジ精神で新領域を切り開いている。
目指すは世界、人類に貢献する食の展開
今後、帝人目黒研究所が開発・製造の拠点となることで、いよいよメーカーとしての体制も整う。そうなれば、より独自色の強いユニークな機能性素材の開発も可能になる。北薗氏は、「まずは腸の健康を軸に、海外へも展開していきたい。食は世界を相手にできるのが魅力。自社で作る体制も整いつつあるので、これまでのように外の力も躊躇なく活用しながら、人類に貢献できる食を世界中に送り届けたい」と力強く展望を語った。
乳酸菌やビフィズス菌に代表されるプロバイオティクス素材市場は、新型コロナウイルス感染症の影響もあり、免疫力強化などへの関心の高まりに比例し、活況を呈している。2021年には世界の市場規模が約 35 億米ドルから2028 年には約 60 億米ドルを超えると予想されている(出典:The Insight Partners(2022))。
メーカーポジションを確立し、独自色を鮮明に
プロバイオティクス素材市場は参入企業も多く、競合がひしめくが、逆にいえば、従来にないアプローチで違いを示すことで、躍進できる余地もある。帝人の技術力を持ってすれば、これまでになかったような「人類に貢献できる食」の創出も大いに期待できるだろう。
いかに病気にならないか――。医薬品分野(骨代謝、代謝、炎症・免疫、循環器など)で培った非臨床・臨床試験の知見およびノウハウ、マテリアル機能における高分子化学、分析化学、構造解析の知見およびノウハウは、機能性食品素材に応用することで、多大な付加価値を生み出す。市場は、より質の高い製品を求める傾向もあり、プロバイオティクス素材市場を攻める、ビオリエ事業の行く末からますます目が離せなくなってきた。