最悪の状況は回避? 「トランプ関税」で米国の小売業界が準備する対応策とは

2025/03/05 05:55
岩田 太郎(在米ジャーナリスト)

ロビイングなど、関税対応はさまざま

 では、米小売各社はこうした不可避の値上げにどのような対策を用意しているのか。関税に限らず、トランプ大統領は交渉の最初に突飛な要求をし、そこからリーダー同士や経営者との個人間の「ディール」を好む傾向があるのはよく知られた事実だ。

 当初は許可しないと公言していた日本製鉄による米鉄鋼大手USスチールの買収を、「巨額投資ならよい」などと条件付きで容認する姿勢を見せたのは、その一例である。

 米国政治ニュースサイト「パンチボウル」が報じるところによれば、トランプ大統領就任に合わせて首都ワシントンにおけるロビイストの登録が急増しているという。その中にはアパレル大手のギャップ(Gap)が含まれており、米国の消費者への悪影響が大きいとされるアパレルへの関税を除外対象にするよう、政権に働きかけていると思われる。

 こうして、一部企業が政権へのロビイングを行うと同時に、多くの米国小売企業は昨年末から、関税引き上げを見込んだ駆け込み輸入を増加させている。これにより米主要港では、貨物の輸入量が当面の間、高水準で推移し続けると予想されている。

 実際、米国の小売大手、ウォルマート(Walmart)は、24年の中国からの輸入量が、対前年同期前年比で33%上昇した。この多くは、関税上昇に備えた在庫積み増しだと、カリフォルニア大学ロサンゼルス校のクリストファー・タン教授は推測している。

 一方、ホームセンター大手のホームデポ(Home Depot)は、サプライチェーンの包括的な見直しを行い、SKU レベルでこまめに調達先を変更するなど、関税対策を打っている。

 ティーン向け衣料のパックサン(PacSun)では、大統領選の翌日にブリーアン・オルソン最高経営責任者(CEO)が香港に飛び、同社の35~40%の商品が生産される中国大陸の衣料工場担当者と関税対策を話し合った。同社では、中国からカンボジアやベトナムへ一部の生産を移して始めているが、トランプ政権の対中追加関税が10%と当初予想よりも低かったことで、関税によるコスト上昇分を小売価格に転嫁することは回避できそうだという。

 そのほか、米国の玩具業界でも、20%の関税上昇分のいくらかは吸収できそうだと関係者は話している。

 米ワシントン・ポスト(Washington Post)紙経済部のヘザー・ロング記者は、「過去数年間で小売業界はコスト上昇分を消費者に転嫁する方法を進化させてきた。トランプ関税のコスト上昇分が大きければ、値上げをしてゆくだろう」と予想している。

 このように、小売各社の関税対策はロビイング、在庫積み増しから調達先変更、そして上昇分転嫁までさまざまだ。しかし、値上げは極力避けようとする努力が払われていることには留意すべきだろう。

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