アディダスのカニエ・ウエスト騒動から学ぶ、セレブリティ起用のメリットとリスク
予め危機対応策を立案する重要性
ここで改めて、なぜYeezyブランドが成功したか、また販売中止後も逆に人気が上昇するような事態が起こるのかを考えると、そもそもの一般受けの理由が、差別発言を含むウェスト氏の「やんちゃさ」「権威への反抗」であることがわかる。
アディダスはYeezyブランドにより、大人に反抗したい若年層消費者の心をわしづかみにしたと言えよう。だが、大人の論理でYeezyブランドを切り捨てたことで、ウェスト氏の「反抗者」「殉教者」としての人気をさらに強化することになってしまった。
アディダスにとり、ウェスト氏は絶大なビジネスチャンスをもたらすと同時に、極めて代償の高くつくビジネスリスクでもあった。
こうしたリスクについて、マーケティング誌AdWeekは、「セレブ起用は諸刃の剣であり、ブランド側は①契約前に身辺調査を徹底させ、②予期される損害を算出し、③ダメージコントロールを立案し、④炎上直後の社会へのコミュニケーションで先手を取るべきだ」と論じ、「ブランド企業とセレブの言い分が対立した場合、ファンはどちらを信じるだろうか」と問いかけ、危機対応策を予めしっかりと用意する必要性を強調した。
ウェスト氏のようなセレブは、消費者に対する飛び抜けた影響力を持つゆえに、ブランドの垂涎の的である。そこには炎上リスクがあり、また性格的に「安全」だと思われたセレブでもセクシュアルハラスメント事案を引き起こす可能性がある。100%の安全はない。起用する場合は、最悪の事態を想定したプランを用意し、企業責任をどのように全うするかの覚悟を決めておく必要があるということが、ウェスト氏の事案の教訓だろう。