市況悪化かそれとも別の事情か……ローソンが成城石井の上場申請を取り下げた理由

棚橋 慶次
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2022年12月16日、ローソン(東京都/竹増貞信社長)は連結子会社の成城石井(神奈川県/原昭彦社長)の上場申請を取り消したことを公表した。成城石井の上場は多くのメディアが注目しており、投資家たちも「上場はいつなのか」「ローソンは持ち株をどのくらい放出するのか」と固唾をのんで待ち構えていた。期待が大きかっただけに、上場申請の取り下げに対して市場は動揺し、週が明けた月曜19日のローソン株価は3.3%下落した。ところがその後、株価は急回復し、23日には値を戻している。市場も判断に迷っているようだ。

成城石井

IPOのプロセスをおさらい

 一般的に、上場にこぎつけるには、およそ3年の準備期間がかかるとされている。最初は監査法人のショートレビューにより、「ルール化されたプロセスに基づき業務を遂行しているか」「事業リスクを経営者が把握しているか」といった観点から内部統制上の課題を洗い出す。

 2年目になると、社内外によるIPO(新規株式公開)監査を受け、具体的に個別業務(予算統制・受発注・資金調達および管理・売上債権回収管理)のレビューを実施し、上場企業にふさわしい業務執行・経営管理体制を確立する。

 3年目は新体制を試行運用し、1年間の実績積み上げを通じ体制を整えていく。同時に、上場に向けた具体的な手続きに入る。証券取引所に上場を申請し、2~3カ月の審査期間を経て承認が降りると、およそ1カ月でプレマーケティング(機関投資家へのヒアリング)、ブックビルディング(投資家の需要状況に応じて公募価格を決定すること)、抽選、購入の募集、上場までバタバタと続く。

 今回、ローソンは上場承認前に申請を取り下げたが、申請後に上場を延期・取り消しするケースも多い。なお、承認後の取り下げは、証券取引所より公表される。

 2022年のIPO取り下げ・中止件数は今回の件を含めて9件。上場実績は100社前後であり1割近くに達する。

上場を取り下げる理由は……

 取り下げ・中止の理由は、「株式市況の悪化」と「内部統制の不備」に大別される。後者に関しては、「みずほ証券からの指摘を受け(レオスキャピタルワークス/2018年)」るなど幹事証券・監査法人から不備を突かれるケースが多い。ただし成城石井の場合、もともと上場企業ローソンの子会社として内部統制・経営管理体制が整備されており、不備の懸念は少ない。

 今回の申請取り消しは、おそらく前者に当たるとみられる。2020年からのコロナショックのような有事の際は、市況悪化を理由とした上場延期・中止が頻発した。2020年3~4月の2カ月間だけで、ロコガイドやGMOフィナンシャルゲートをはじめ18社が上場を取りやめた。なお、18社はいずれもその後上場を果たしている。

 現在、株式市場はほぼ平時だが、相場的にはさえない状況が続く。IPOを取り巻く環境もの申請件数(1-9月)も前年より4割減、調達金額も6割減と悪化している。

 加えて、成城石井の場合は時価総額が2000億円に達するとされる。日本のIPO市場は個人投資家が主体であるため吸収力が弱く、100億円のIPOでも大型案件とされるぐらいだ。とくに現在の軟調市場では、巨額のIPOを吸収しきれず上場後の株価が低迷するリスクもある。

 ローソンサイドが想定公開価格に不満を抱いた可能性も考えられる。公開価格は最終的に投資家へのブックビルディング(公募)によって決まるが、実際は上場承認前の想定公開価格によってほぼ落としどころが定まる。想定公開価格は、「適正株価-ディスカウント価格」によって決まる。

 幹事証券は、店舗を通じてIPO株を売りさばく。「公開価格は極力低く抑えて、優良顧客を儲けさせたい」というのが証券会社の本音だ。結果として、ディスカウント価格が大きく取られ、IPO発行企業には不満が残りやすい。

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