「クックマート」のローカルスーパー第三の道 地域×HR戦略が地方チェーンを面白くする
ファンドと組んでも
規模追求のM&Aはしない
――23年10月にはデライトHDの公式ウェブサイトも立ち上がりました。現在、足元ではどのようなことを進めているのでしょうか。
白井 ウェブサイトはちょっと奇抜なのですが、ローカルの楽しさ・面白さを私たちなりに表現したものです。漫画家の大橋裕之さんを起用し、「全力で脱力」をめざしました。ありがたいことに全国の食品スーパーや地方の事業者の方々から反響をいただいています。業界内外の方々との意見交換の機会も増えました。これを通じてローカルチェーンの知見や、共通の悩み、課題を蓄積させることができています。
ファンドと組んだことで誤解されがちなのですが、私は規模を追ったM&A(合併と買収)を考えているわけではありません。急拡大は、組織に歪みを生じさせます。また、それにより「普通の大きなスーパー」になってしまっては本末転倒であり、また私の性にも合っていません。どちらかというと「ゆっくりじっくりやっていきたいタイプ」なのです。
あくまで、自立した強いローカルスーパーが地域にあって、そういうスーパーが大手をめざすのではなく、「ローカルならでは」の組織のあり方をめざすことが大事だと思っています。
当社については、「クックマート」モデルのさらなる磨き上げと体系化を進め、将来的にはその応用展開をほかのローカルスーパーにできたら面白いと考えています。こういうアプローチがない限り、ローカルはローカルのよさを失って「ミニ大手」となり、競争力を失っていくのではないか?大手と同じことをやっていても仕方がないのでは?同じようなことを考える「同志」は現れないか?と考えています。
――最後にこれからの成長に向けた白井社長の想いをお願いします。
白井 デライトHDの発足、書籍出版、それらへの反響を経て、「ローカルの普通の人々を活かす」HRの考え方はこれからの時代において潜在的ニーズが大きいと改めて感じています。どんなにテクノロジーが発展しても「人間」をいかに扱うかは付いて回るものです。
書籍の中でお伝えしたように、「生鮮・ローカル・人間」という「3重のナマモノ」を扱うローカルスーパーはある種の「魔境」なので、HRの戦略についても、システムとして簡単に他社へ移植できるものではありません。たとえばクックマートでは「哲学カフェ」(※)などの独自の施策を行っているように、個々の企業の現状や段階に沿ったアプローチが必要です。そこが難しく、まどろっこしいけれど面白いところでもあります。
「クックマート」を通じて、これからの時代に必要な、ローカルチェーンならではのHRモデルの構築をめざします。慌てず騒がずクックマートの磨き上げにしっかりと取り組んでいきます。そのなかで、新たな出会いやコラボレーションが生まれていくと思いますし、われわれ自身、「何が起きるか、見てみよう」というマインドで前進しています。
▼書籍『クックマートの競争戦略 ローカルチェーンストア・第三の道』の詳細はこちら▼
※「哲学カフェ」=コロナ禍でスタートしたデライトHDのユニークな社内制度の1つで、対話型の研修。従業員が、仕事上のことはもちろん、人生の悩みなどを社長と問答する。社内コミュニケーションだけでなく、トップのモノの見方や視点を与え、より広い視野で物事を捉えられるようにすることがねらい
【略歴】
デライトホールディングス/クックマート 代表取締役社長 白井 健太郎
1980年愛知県豊橋市生まれ。明治大学商学部卒業後、インターネット広告、キャラクタービジネス、映像制作、観光プロモーション、クリエイターのエージェントなどを経験。2010年デライト関連会社である食品卸問屋に入社。2012年デライト入社。2017年より代表取締役社長。今までのスーパーマーケット業界の常識にとらわれず、「楽しさ」「内発的動機」を中心とした「人を幸せにする新しいチェーンストアの創造」を目指している
デライトホールディングス
https://delight-hd.co.jp/
クックマート
https://www.cookmart.co.jp/