「サステナブル提案」はコストじゃなく利益!土屋鞄製造所が若年層を取り込んだ手法とは
土屋鞄製造所のサステナブルな取り組みとは…
土屋鞄製造所が手がけるサステナブルな取り組みとしてまず挙げられるのが、21年に立ち上げた「CRAFTCRAFTS(クラフトクラフツ)」だ。土屋鞄製品を店頭で無料手入れする「ケアサポート」や、専任職人が修理する「リペア」、ランドセルを小物などに作り直す「リメイク」、そして商品を無料で引き取り、職人が修理して別のユーザーに再販する「リユース」に取り組む。
なかでもユニークなのが、「リユース」の取り組みだ。長く愛用してきたバッグでも、ライフスタイルの変化などから手放さざるを得ないときがある。しかし、経年劣化が激しい場合、ネットオークションに出しづらく、捨てるのも気が引ける。そうしたユーザーに向け、ポップアップ形式の店舗において商品を無料で引き取り、美しくリペアする。その商品をまた新たなユーザーに販売することで「リユース」する仕組みだ。
(キャプ・CRAFTCRAFTSのリユース事業。専門職人がリペアし、新たな使い手に
こうしてリユースした商品は通常価格の25~50%引きで販売する。普段セールを一切しない土屋鞄製造所にとっては大胆な取り組みであり、エントリーユーザーを増やすきっかけにもなった。中橋氏は「購入するお客さまからはもちろんのこと、商品を提供いただいた方からも『愛着のあったバッグが生まれ変わり、また別の方に愛用されるのはうれしい』といった声を多くいただいている」と力を込める。
23年からは、製品を長く使用してもらうことを目的とした期間限定イベント「パーソナライズサービス」も始めた。期間中に土屋鞄の愛用品を持ち込めば、取っ手の長さを変更したり、色を黒に塗り替えたり、イニシャルやナンバリングを入れたりと一人ひとりの好みに即したカスタマイズを請け負う。このイベントはランドセルを専門に扱う10店舗を中心に開催している。繁忙期を避けることで、店舗の有効活用にもつながる。
さらに注目すべきは、22年12月15日にリリースした「Mylo(マイロ)」シリーズだ。Myloは、アメリカのバイオテックベンチャー企業であるボルト・スレッズ社が開発したキノコの菌糸体でつくられた新素材だ。牛革のような質感を持ちながらも植物由来なため環境にやさしく、なおかつ動物愛護といった皮革メーカーが直面する社会課題にも抵触しない。
SDGsが一般化し、サステナブルなものづくりが求められるなか、ボルト・スレッズ社には世界中の革製品メーカーから数千にもおよぶ「Myloを使いたい」とラブコールが入っている。
「同じニーズと課題感を私たちも持っていました」と中橋氏は話す。日本でもSDGsが一般化し、価値観も多様化している潮流を鑑み、かねてよりMyloのような代替レザーを選択肢の一つとして用意していくべきだ、と考えていたという。
しかし、Myloはまだ大量生産の段階にない希少な素材だ。そのためボルト・スレッズ社は取引先を、「グッチ」や「ボッテガ・ヴェネタ」などを有するケリンググループや、アディダス、ステラ・マッカートニー、ルル・レモンといったグローバルブランド4社に絞っていた。
持続可能なモノづくりに長年取り組んできた実績が評価
バイオ・スレッズ社との交渉は、土屋鞄製造所の親会社であるハリズリーが中心となって進めた。数千の企業がMyloとの契約を望んでいたため、交渉は容易ではなかった。そうしたなかで、土屋鞄製造所が「日本の子供たちが6年間使うランドセルを半世紀近くつくってきた」という世界でも稀な実績を持っていたことを評価され、契約を勝ち取ったのだ。
「ランドセルは日本人が最初に触れるクラフトマンシップだ。それをMyloのような未来の素材で作ることに“夢”を感じていただけたようだ」(中橋氏)。
取り引き開始後すぐに、熟練の職人が届いたサンプル素材からL字型のファスナー付きミニ財布を試作した。わずか3週間後には、ボルト・スレッズ社に送付し、その製作のスピード感と質の高さにボルト・スレッズ社は驚いたという。
土屋鞄製造所の職人はすべて正社員で、日々、ランドセルや革小物づくりによって研鑽を積んでいる。そうした環境下で培われた質の高い技術力も大いに評価された。
昨年12月から一部の直営店と自社オンラインストアでMyloを使ったファスナー付きミニ財布の販売をスタートした。これまでの客層とはちがう、環境意識やファッション感度の高い層にリーチできたことで、売れ行きは好調だという。