クローガーのアルバートソンズ買収はなぜ失敗したのか、在米ジャーナリストが解説

岩田 太郎(在米ジャーナリスト)

政治化したインフレ、時流を読み切れず

 米生鮮小売チェーンに関するニュースサイトの米グローサリー・ダイブ(Grocery Dive)のキャサリン・モラン編集委員などは、クロ―ガーのアルバートソンズ買収の失敗に関して、12月18日付の解説記事で学ぶべき教訓を分析した。

 両社の合併は屈指の生鮮チェーンを誕生させる「メガディール」であり、タイミング的に最悪であったとモラン氏らは説明した。

 また、余剰店の売却先として選定されたC&Sホールセール・グローサーズは卸分野で強みを持つものの、小売部門では24店舗しか運営経験がなく、いきなり580店を買い取ってもきちんと地元の買い物客の役に立つ経営ができるのか、当局から疑問視されたのである。

 米コンサルティング企業アルバレス&マーサル(Alvarez & Marsal)のジョン・クリア専務は同記事で、「当該案件に関するアプローチはクロ―ガーとアルバートソンズの利益を中心に組み立てられており、消費者が置き去りにされていた」と指摘した。

 事実、両社は合併計画の発表から2年が経ってようやく「合併すれば値下げを提供する」と公表したのだが、その約束に法的拘束力はなく、とくに食料品のインフレが大統領選挙の主要争点になる政治的な環境の下、不信感を持たれる結果に終わった。

 クリア氏はさらに、「(毎日の食品購入という重要性から)生鮮食品店には(独禁法上の)より高い基準が求められている。また、実際以上に消費者から『スーパーマーケットは価格を吊り上げている』と思われやすいことに注意が必要だ」と語る。

 たとえば、民主党の選挙専門家であるブラッド・バノン氏は政治サイトのザ・ヒル(The Hill)で、「クロ―ガーとアルバートソンズの合併は、北西部ワシントン州の消費者だけでも年間8億ドル(約1250 億円)の負担増になるはずだった。買収失敗は一般消費者にとり勝利だ」との論調を展開している。

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2025年も合併案件続々の予感?

 さらに悪いことに、大統領選の期間を通して民主党のバイデン大統領、そしてのちに民主党候補に指名されたハリス副大統領、共和党のトランプ大統領はすべて食品価格を下げることを公約にしていた。合併による独占的地位により価格上昇が想起されるメガチェーンの誕生は、政治的にも問題化しやすかった。

 一方、候補者たちは合併反対の立場を取ることで、物価高に対する国民の政治に対する怒りのはけ口として買収案件を利用できた。クロ―ガーとアルバートソンズはインフレが高進した時期に、消費者と規制当局、政治家たちに対するコミュニケーションで失敗したと言えよう。

 こうして失敗に終わった業界の再編だが、2025年1月にトランプ政権が発足しても、合併案件は次々と出てくるだろうというのが、米小売業界の一致した見解だ。なぜなら、中堅や小規模チェーンはスケールにおいて大手の競争から置き去りにされており、経営が成り立たなくなってから安く買収されるよりは今、積極的に吸収合併を求める方が得策であるからだ。

 米金融大手バンクオブアメリカは、クロ―ガーのスケール効率性を高く評価し、株価目標を70ドルから75ドルへと引き上げた。対するアルバートソンズは、店舗売却などで経営をスリム化して、より魅力的な買収対象になろうとすることが考えられるという。

 その際には、「消費者の利益追求」という主張がより前面において採用されるのではないだろうか。

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