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第2次ブーム到来!? セブン&アイ買収提案で注目集まるMBO、そのメリット・デメリットは?

兵藤 雄之
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MBO後、再上場のケースも

 MBOにより非公開化した後、再上場するケースもある。

 よく知られたところでは、すかいらーく(06年MBO、14年すかいらーくホールディングスとして再上場)、ワールド(05年MBO、18年再上場)がある。

 MBOから8年後に再上場を果たしたすかいらーくは、MBO後、創業以来の中核業態であった「すかいらーく」を完全閉店、出店ありきの成長から「ガスト」への転換やリモデルへの投資、顧客データの“見える化”などをはじめとした経営改革を断行した。ワールドは「企業体質強化のための構造改革プラン完遂」と「持続的成長に向けたコーポレートデザイン構築」といった目的の達成により13年後に再上場した。

 上場維持費用の負担増がMBOの理由の一つにあげられることもある。

 22年4月の東京証券取引所の市場区分変更に伴い、流通株式時価総額や流通株式比率、株主数などの上場基準が厳しくなり、中堅クラスやオーナー系企業にとっては上場維持のハードルが高まったといわれている。上場によって得られる資金調達や信用度、知名度などのメリットを考慮しても、上場維持に価値を見出せなくなった場合には、MBOによる非上場化は合理的な選択肢として考えられる。

 例えばアオキスーパーはMBO実施に際し、その理由として「上場から19年以上経過し、ブランドや信用力は確保できており、非公開化によるデメリットは限定的。上場維持に必要な人的・金銭的コストは増加を続けており、経営推進上の大きな負担となる可能性も否定できない」といった内容の開示をしている。

 そしてもうひとつMBOに向かう理由として見過ごせないものがある。

 MBOは企業価値を持続的に成長させるための手段であって、それ自体が目的ではないはずだが、敵対的買収(事前に被買収企業の取締役会の同意を得ずに発表される上場企業へのTOB。最近では「同意なき買収」と表現することもある)やアクティビストの攻撃に対応するための「究極の」買収防衛策としてMBOが実施されることもある。

 ただし最近は、そうしたアクションに対し「経営陣の保身ではないか」との批判も高まっており、安易な買収防衛策に対する株主の目は厳しくなっている。

 19年に経済産業省で策定された公正なM&Aの在り方に関する指針では「買収する側、買収される側双方の企業価値向上や株主利益に資する買収は『望ましい買収』と位置づけ、そうした買収の提案を受けた企業は真摯に検討するよう」求めている。これにより「経営者の保身につながる」と批判の強かった買収防衛策の抑止が進むことも期待される。

GCShutter/iStock

セブン&アイMBO、実現すれば過去最大のM&Aに

 さて、セブン&アイ創業家によるMBOの場合はどうだろう。

 買収提案に至る経緯から明らかなように、ATCによる買収に対する防衛策に近い提案と考えられる。

 しかし当該会社の代表取締役が提案する買収防衛策だからといって、そのまま取締役会の同意が得られるわけではない。経産省の指針に沿って、企業価値向上や株主利益に資する提案である限りは、ACTからの提案も、創業家からの提案も、社外取締役を中心に外部有識者で構成される特別委員会により、検討されることになるはずだ。

 セブン&アイが24年11月13日のリリースで明らかにしたところによれば、

当社の特別委員会委員長及び取締役会議長であるスティーブン・ヘイズ・デイカス氏は、以下のようにコメントしております。
「我々は、伊藤順朗氏及び伊藤興業からの提案、ACTからの提案、並びに当社が実行可能なスタンドアローンでの施策を含め、潜在的な株主価値の実現のための全ての選択肢を客観的に検討しております。
当社の特別委員会及び取締役会は、価値最大化に向けて各関係者との対話を継続すると共に、当社株主及びその他のステークホルダーの利益の最大化に向け、引き続き取り組む所存です。」

 としており、創業家提案によるMBO、同社の現経営陣による単独の生き残り策を含め、すべての可能性が含まれている。

 もし仮に、創業家からの提案のスキームが実行に移されるとすると、総額9兆円ともいわれる買収費用は、MBOとして最大であるだけでなく(これまでの国内最大は、24年1月大正製薬ホールディングスの7000億円超)、日本国内では過去最大規模のM&Aになる。

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