第120回 ECの脅威は物販にあらず SCが直面する本当の脅威とは

西山 貴仁 (株式会社SC&パートナーズ代表取締役)

いま必要なのは来店動機の再構築

 ネット技術の進化は、ショッピングセンターや百貨店へ足を運ぶ動機を確実に弱めている。消費者が、金銭的コストと時間的コストを支払ってまで来店する意味を見いだせなければ、商業施設は選ばれない。

 この構造をマイケル・E・ポーター氏の「5フォース分析」に照らして見ると、ECは同業他社としての「競合」ではなく、「代替品の脅威」と位置づけるのが妥当である(図表6)

図表6  5フォース分析

 いまや市民生活における多くの行動が、ネットを介して完結する構造になっている。買物、旅行、金融、映像視聴、さらには人間関係までもがネット上で完結し、リアルな商業施設は「時間の奪い合い」という新たな競争軸に巻き込まれている。

 つまり、ショッピングセンターや百貨店が直面しているのは、単なる業態間競争ではなく、「生活の全体構造における役割の再定義」だという認識が必要である。あらためて問うべきは、「リアルでなければ提供できない価値」とは何か、という点である。消費者が自宅で動画を視聴する時間を割いてまで訪れたいと感じるような“行く理由”を提供できなければ、ショッピングセンターや百貨店はネット社会の代替品に時間を奪われてしまう。

 にもかかわらず、依然として「何が売れるか」「どう売るか」といった従来型の「マーケティング1.0」的発想から抜け出せていない施設も少なくない。もはや「売る場」ではなく、「来たくなる場」「体験したくなる場」へと進化することが、リアルな売場が生き残る唯一の道である。

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記事執筆者

西山 貴仁 / 株式会社SC&パートナーズ 代表取締役

東京急行電鉄(株)に入社後、土地区画整理事業や街づくり、商業施設の開発、運営、リニューアルを手掛ける。2012年(株)東急モールズデベロップメント常務執行役員。201511月独立。現在は、SC企業人材研修、企業インナーブランディング、経営計画策定、百貨店SC化プロジェクト、テナントの出店戦略策定など幅広く活動している。小田原市商業戦略推進アドバイザー、SC経営士、(一社)日本SC協会会員、青山学院大学経済学部卒

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