金物小売業の凋落(ちょうらく)、売上は半分以下に
建築職人が仕事現場で使う建築資材・工具・金物・作業衣料・作業用品・電材、管材などの流通構造が過渡期を迎えている。それは建設業界の変化と、建築職人を取り巻く卸売・小売業のプレーヤーの変化という2つから説明できる。
まず、建設業界では大きな流れとして「新築」から「リフォーム」へと移行してきている。国内建設市場は約80兆円あるが、そのうちリフォーム市場が約7兆円(出典:国土交通省「令和3年度建設投資見通し」)。新築着工件数は減少の一途をたどっている一方で、リフォーム市場は底堅い需要が続いている。
また、慢性的な職人不足が続いている。土木・電設・リフォームなどさまざまな業種の仕事を請け負う多能工や、一人親方といった働き方も増えている。住宅メーカーや大手工務店は住設・建材の専門商社から仕事道具や材料を仕入れているが、中小・零細工務店や個人事業主は小売店舗で購入することが多い。
このように建設市場が大きな転換点を迎えている一方、中小工務店、個人事業主といった建築職人を取り巻く卸売・小売業のプレーヤーも変化している。
最も大きい変化は地場の金物店・材木店など専門店が激減していることだ。経済産業省の商業統計・経済センサスによると、「金物小売業」「荒物小売業」の合計事業所数は2007年に5万以上あったが、21年には約1万5000事業所と3分の1以下となっている。年間商品販売額も07年は約1兆円だったが、21年には約3000億円となっている。その要因は大手ホームセンター(HC)との競争激化による業績悪化や、跡継ぎ問題が挙げられる。
これまで建築職人の主な調達の場所となっていた金物店の閉業が続くなか、その市場のシェア獲得を虎視眈々(こしたんたん)とねらっているのが、次の3つの勢力である。
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ホームセンターの躍進、新規参入相次ぐ
3つの勢力の中で最も勢いがあるのはHCを母体とするプロショップだ。
業界をリードするのはコーナン商事(大阪府)で、プロショップ「コーナンPRO」を01年に開業。職人の生活・購買行動を徹底研究し、それを売場づくりや商品政策に反映させた。建築資材も含め、工具・金物・作業用品など総合的な品揃えをしたプロショップで、同業他社に先駆けて新規市場の開拓を進めてきた。19年6月には会員制卸売業の建デポ(東京都)を買収。プロ事業を合わせると、24年2月期末に店舗数が210店舗、売上高は約1300億円となる。
コーナン商事に続くのがDCMホールディングス(東京都)傘下のホダカ(東京都)だ。08年8月に愛知県からスタートしたホダカは、店舗面積300坪を標準フォーマットとし、工具・金物・作業用品の専門店として職人の支持を集める。24年2月期には店舗数が63店舗、売上高が230億円となった。
この2社がHC系プロショップをけん引するなか、20年前後には多くのHC企業がプロ事業に本格参入し始めた。カインズ(埼玉県)、コメリ(新潟県)、アークランズ(新潟県)、ジョイフル本田(茨城県)、アレンザホールディングス(福島県)など大手
HCのほとんどがプロ事業強化の方針を打ち出している。HCはフォーマット誕生から50年以上がたち、市場規模は約4兆円で20年近く伸び悩みが続いてきた。新たなマーケットとしてプロ市場のシェア獲得をねらう。
住設・建材の専門商社も動く
2つ目の勢力は住設・建材専門商社だ。もともと住宅メーカーや大手工務店など法人を主な顧客としてきた。しかし、建設市場の環境変化に合わせて、一人親方や多能工までターゲットを広げてきている。富士経済グループによると、25年の市場規模(予測)は住設が約2兆7700億円、建材が約2兆円で合計4兆7500億円となる。
業界大手の渡辺パイプ(東京都)は管材の専門商社からスタートし、住設機器、電材へと取扱カテゴリーを拡大。全国に約580の営業所があり、現場に30〜60分で資材を配達できるスピードが特徴だ。新規顧客獲得を得意としており、顧客は毎年1万社以上増えている。元請けと施工店の顧客同士をマッチングする「セディア・コネクト」サービスや、ハウスメーカー・建築業者向けに設備設計サービスを提供するなど、物販以外の新規事業にも積極的である。住設・建材専門商社の中でも業績の伸び率がトップクラスで、24年3月期の売上高は4100億円を突破し、業界最大手となる見込みだ。
小売事業に進出する企業も見られる。
住設機器専門商社の小泉(東京都)は小売事業としてプロショップ「プロストック」を展開する。プロストックは03年に1号店「プロストック仙台南店」(宮城県仙台市)をオープン。その後、首都圏を中心に店舗網を拡大し、24年5月末時点で25店舗を展開する。同事業の特徴は、管材、空調部材、電材、住設機器などのカテゴリーの専門性の高い品揃えだ。小泉の営業所を補完する役割を担っており、今後は首都圏30店舗体制、さらに営業所のある地方にも進出する方針だ。
そのほか、工具・金物専門商社の島袋(沖縄県)は工具・金物専門店「シマコーポレーション」を展開。1995年に小売事業に新規参入し、1号店「シマコーポレーション門真店」(大阪府門真市)をオープン。それ以来、2〜3年に1店舗のペースで新規出店し、現在は大阪府、京都府、兵庫県で11店舗を展開する。
6兆円市場の勝者はだれか?
第3の勢力はEC事業である。建設業者をターゲットにしたECは現状、MonotaRo(大阪府)の「モノタロウ」により独占されていると言っても過言ではない。同社の23年12月期売上高は2542億円で、そのうち「建設業・工事業」の割合が約2割。つまり建設業者向けに約500億円を売り上げている。
この牙城(がじょう)を崩すべく、「DIY Factory」を運営する大都(大阪府)はBtoBに特化したECプラットフォーム「トラノテ」を23年2月に開設。渡辺パイプは今年4月からEC「シザいもん」をスタートさせた。HC企業もカインズやコメリなど、EC事業でプロ顧客の拡大をねらっている。
プロ市場は金物店、HC系プロショップ、住設・建材専門商社、建設業者向けECの4大プレーヤーの市場規模を合計すると約6兆円のポテンシャルを持つ。今なお、個人経営の金物店は減り続け、一人親方や多能工は増え、買い場に困っている。また、住設・建材の専門商社最大手が売上高4000億円、小売業最大手が約1300億円で、まだまだ寡占化されていない。
今は変革の過渡期で、群雄割拠の時代である。建築職人から信頼されるようになるには時間がかかるし、簡単ではない。しかし、今アクセルを踏んで、建築職人の信頼を勝ち取ったプレーヤーが将来生き残っていくはずだ。
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