北米で1200以上の小売チェーンと提携し、95%超の世帯をカバーする米食品宅配サービス大手のインスタカート(Instacart)は近年、広告事業を順調に拡大させている。実に、リテールメディアから1000億円の売上を稼ぎ出す、インスタカートのリテールメディアの取り組みをまとめた。
売上の3割をリテールメディアから稼ぎ出す
米テクノロジー専門メディア「インフォメーション」(The Information)によると、インスタカートの2022年度の広告収入は、売上高の約30%に相当する7億4000万ドル(1036億円:1ドル=140円で換算)。今後、この規模はさらに拡大すると見込まれ、米市場調査会社イーマーケター(eMarketer)は「25年に17億2000万ドル(2408億円)に達する」と予測している。
インスタカートは20年からセルフサーブ型広告「インスタカート・アド」(Instacart Ads)をユニリーバ(Unilever)やゼネラル・ミルズ(General Mills)、ペプシコ(PepsiCo)ら、5500以上の消費財ブランドに提供している。23年1~2月の社内テストでは、「インスタカート・アド」の広告キャンペーンによってスポンサープロダクトの売上高が平均15%増加したことが示された。
22年3月には、広告事業で培ってきた技術やソリューション、ノウハウを活用し、小売企業がリテールメディアネットワーク(RMN)を構築するための広告ソリューション「キャロット・アド」(Carrot Ads)をリリースした。小売企業は自社のECサイトやスマホアプリをメディア化して広告収入を得られる一方、「インスタカート・アド」を利用する消費財ブランドは、インスタカートに加えて小売企業が個々に運営するリテールメディアでもユーザーにリーチできるようになる。
米国23州で380店舗以上を展開するオーガニック食品スーパー(SM)スプラウツ・ファーマーズマーケット(Sprouts Farmers Market、以下、スプラウツ)は23年5月、小売企業で初めて「キャロット・アド」を活用し、自社のRMNを構築した。メインターゲットである健康志向の高いユーザーと消費財ブランドやその商品をつなぐ新たな手段を提供するのが狙いだ。
インスタカートと提携したスーパーのEC化率が急上昇
消費財ブランドは「インスタカート・アド」の広告キャンペーンをスプラウツのECサイトやスマホアプリでもシームレスに展開できるだけでなく、スプラウツのECに特化した専用オンラインキャンペーンを実施し、ROAS(広告費用対効果)などの指標でその効果を定量的に測定できる。これまでに、ゼネラル・ミルズのほか、植物性ミルクブランド「カリフィアファームズ」(Califia Farms)やメキシカン食品ブランド「シエテ・ファミリー・フーズ」(Siete Family Foods)といった新興ブランドもスプラウツのRMNを利用し始めた。
スプラウツでは18年1月からインスタカートと提携し、食品宅配サービスを展開。23年度第1四半期のECの売上高は対前年同期比2ケタ増と伸長し、EC化率は12.2%となっている。ゼネラル・ミルズのカスタマーバイスプレジデント(VP)ラクエル・ナバルスキー氏は「より多くの消費者がオンラインで食料品を購入している」とし、「『インスタカート・アド』の広告キャンペーンをスプラウツのECサイトにも拡大できれば、我々のブランド認知度をさらに高められるだろう」と期待感を示している。
「キャロット・アド」を活用したRMNの構築は中小規模のSMで広がりつつある。23年6月には、米ノースイースト・グロサリー(Northeast Grocery)傘下のSMトップス(Tops)とプライスチョッパー/マーケット32(Price Chopper/Market32)も、「キャロット・アド」を活用してRMNを立ち上げた。