営業利益の1割以上!?「リテイルメディアは、小売業の利益にどれだけ貢献するのか?」
値上げ、競争激化、コスト急騰時代の小売業界において、いまもっとも熱いトピックの一つが「リテールメディア」だろう。「熱い」理由は、何よりも「新たな収益確保」が見込めるとされているからだ。実際、リテールメディアの収益は今後、小売業の利益にどれだけ貢献するのだろうか?
リテールメディアにまつわる2つの「真逆の」誤解
「小売業経営者に対してリテールメディアの話をする機会が増えているが、多くの人は誤解している」
このように語るのはPwCコンサルティング・マネージングディレクターの矢矧晴彦氏だ。
矢矧氏によると、「リテールメディアは儲からない」という誤解だけでなく、「リテールメディアは、始めればすぐ儲かる」という誤解をしている人が後を絶たないという。
この多くが、「デジタルサイネージを置けば、勝手にお金になる(=広告が出稿される)」と思っているケースだ。広告媒体としての「場」を提供さえすれば儲かる、と単純に考えがちだが、そもそもリテイルメディアが注目されている背景には、「従来のマスメディアにはできない良い面がある」からだ。店にただサイネージが置いてあるだけではわざわざ出稿する意味は薄い。
「必要な顧客データが揃っていること、それによって精緻なターゲティングができること、そして広告を出した結果売れたか売れなかったかが広告ID単位(広告配信識別子)で紐づけられる、この3つがそろっていないとリテールメディアとしては成立しないし、広告主側も出稿するメリットを感じにくい」と矢矧氏は指摘する。
「リテールメディアは、儲かる」
では、「リテールメディアは儲かるのか」
これに対して矢矧氏は「正しく構想してビジネスを設計し、適切な投資を行えば儲けられることはウォルマート(Walmart)やアマゾン(Amazon.com)、クローガー(Kroger)など米大手小売業が良い例だ」と語る。
例えばウォルマートの場合、複数の情報ソースから総合的に推計すると、ウォルマートの営業利益の8.9%はすでにリテールメディア事業によって創出された利益になるようだ。ウォルマートの23年1月期の営業利益(Operatiing income)は2兆8600億円(1ドル=140円換算)。その8.9%ということは2545億円にも上る。リテールメディアから得られる利益だけで、あのイオン(千葉県)の連結営業利益を軽く上回る利益を稼いでいることになる。
さらにウォルマートのCFOは、あるカンファレンスで、将来的にはリテールメディアやマーケットプレイスからの収益、サブスクサービスの「ウォルマート+」などから得られる「非小売収益」のほうが、本業の小売収益を上回るようになるだろうと発言しているという。
なぜ小売収益以外を伸ばす必要があるのか?結論から言えば、本業を強くし、勝ち残るためだ。ウォルマートは、高収益を実現する「オムニチャネル化」が今後の小売業の生き残る道であると捉えており、そのためにはまだまだサプライチェーンなどへの投資を必要としている。さらには販売商品の価格を引き下げる原資にすることで、いっそう店舗の競争力を高めることができる。つまり、「本業に投資し続け、成長するためにも非小売収益は必要であり、その非小売収益を稼ぐうえで、リテールメディアは有力な事業になる」(矢矧氏)いうわけだ。
日本の小売業の場合はどうだろうか。博報堂ショッパーマーケティング事業局長の徳久真也氏は「日本の小売業も基本的に同じ。ただそもそも論として、欧米企業と比べ相対的に営業利益率が低い日本の小売業は、今後さらなる人件費、光熱費の高騰で販管費がいっそう上がっていくことを踏まえると、収益確保が難しくなってくる。事業継続のためにも、本業以外で収益を獲得する道をつくることが重要になってくる」と語る。
勝ち残るためにも、生き残るためにも、多くの小売業にとってリテールメディアは重要な収益創出機会になりそうだ。