2022年12月に発表された、ぐるなび総研による22年度の“今年の一皿”は「冷凍グルメ」。コロナ禍で飲食店が急速冷凍機器を導入する例が増え、店の料理を通販するなど冷凍グルメが増えたこと、さらに保存性やフードロスの観点からも今後の社会において不可欠になることから選ばれた。食品スーパー(SM)でも、冷凍食品の売上伸長率は他カテゴリーと比較してダントツに高い。SM1店舗あたりの冷凍食品の平均売上規模は19年と比べて21年には300万円以上増える(KSP-SP「KSP-POS」より食未来研究室分析)など、冷凍食品人気は広がっており、商品も進化を遂げている。そこで今回は、動向に詳しい冷凍機器メーカーを訪ね、メーカーが今取り組んでいることや冷凍機器の最前線、今求められているニーズ、今後の動向や注目の冷凍食品を聞いた。
食品衛生の老舗企業が急速冷凍機を扱う理由
訪ねたのはマイナス30度のアルコールで凍結する液体急速凍結機「ラピッドフリーザー」が好調のサラヤ(大阪/更家悠介社長)だ。
創業時より食品衛生の分野でさまざまな商品やサービスを提供してきたサラヤ。事業の中で「人と食を取り巻く課題解決」を目指し、少子高齢化や後継者不足などで悩む生産地の支援を以前から行ってきた。
そうした中、2013年頃から提案し実践してきたのが、水産物などの資源が採れる時期に素材や加工品を冷凍保存し、天災や温暖化による不作・不漁、人手不足、フードロスなどを解決する方法だ。
当初は他社の急速冷凍機器を利用していたが、アルコールを媒介する液体急速凍結機に着目。衛生用品の原材料としてアルコールを扱う自社の強みを活かし、ラピッドフリーザーの自社開発・製造に乗り出して2017年から販売した。
また同年には、冷凍食品の専門家として知られる東京海洋大学の鈴木徹教授と業務提携し、冷凍学の研究をスタート。2019年には、熱い状態の食品を真空包装できる真空包装機「シュットマン」を製造販売していた大阪府の会社から引き継いだ。これらによって冷凍・保存における技術と知識が揃い、そこに従来の衛生管理である「食の安全」を加え、新たな「新チルド冷凍調理システム」を提案して生産地と消費者を繋ぐ事業を始めた。
冷凍技術を利用した総菜・弁当の店を出店
2020年以降のコロナ禍では、生産者を支援するべく、同年8月、大阪東部卸売市場内に総菜の製造ラボを開設。生産地から生産物の余剰を引き取って同所で作った総菜を冷凍し、各地で調理販売するキッチンカービジネスを始めた。
このことをきっかけに、サラヤでは冷凍食材や冷凍商品の販売チャネル作りにも注力することにした。前述のキッチンカーやECでの販売、異業種の一角に冷凍ショーケースを置いて小売するケースやラボをゴーストレストランとして利用したデリバリーも開始したという。2023年1月には本社隣のコンビニエンスストア跡地に、新チルド調理システムを利用した惣菜・弁当の販売店「コトフ マルシェ」を開業した。
同店では毎日、冷凍した総菜やミールキットがラボから届けられ、厨房のコンベクションオーブンや湯煎調理器などで解凍または調理して約20~30品の総菜を陳列する。お客は好みの大きさの弁当箱に総菜を詰め、量り売りなどで販売しており、周辺に住む高齢者や主婦層を中心に集客する。
料理は、例えば鯖の塩焼きは、冷凍状態からコンベクションオーブンで一気に焼いて皮目をパリッと仕上げる。バンバンジーは冷凍の蒸し鶏を湯煎で解凍し、店の厨房でフレッシュのキュウリや解凍したタレで和えている。カニとレタスの炒飯は冷凍状態の炒飯をバットに広げ、
サラヤ出資100%で設立し、同店を運営するCotofの代表取締役・脇本邦裕氏は「冷凍技術の利点は主素材とソースやタレを分けて冷凍し、組み合わせを変えることで誰でもメニューバリエーションを拡大できること。また来客が読めないコロナ禍の中でも冷凍食品を利用することで需要と供給を調整できフードロスを軽減できること。賞味期限を長く取れることなど。今後も冷凍・保存・解凍・調理の技術をこの店から提案・発信したい」と話す。その言葉通り、同店は新チルド冷凍調理システムのアンテナショップとしての役割も兼ねており、視察に訪れる飲食関係者も多い。
注目の冷凍機器&冷凍食品とは?
冷凍機器の中でも「サラヤの業界シェアは不明」(脇本氏)と前置きした上で、サラヤの「ラピッドフリーザー」は昨年の販売台数比300%増、2023年の売れ行きもすでに好調だという。
顧客はほぼ飲食店。「昔は魚介類の加工業者など、一次産業や二次産業に携わる企業がほとんどでしたが、今は飲食店といった三次産業に携わる方が生き残りをかけて導入する例が増えた。また食品ロス削減推進法の施行でフードロスは今後、企業や店にとって命題。エシカル、SDGs、フードロス対策をきっかけに冷凍に着目する人が多い」と話す。
現在の冷凍機器事情はというと、①マイナス30度のアルコール凍結液に真空パックした食品を浸して短時間で凍らせる液体式、②マイナス30度以下の気体を当てるエアブラスト方式、③マイナス35度の気体を全方位から当てる3D冷凍といった種類に分けられる。
①は一般的な冷凍庫の約20倍という凍結スピードの速さとランニングコストの安さが魅力。小型機もあり、小規模店でも取り入れやすい。一方で超大量生産は不向きだ。サラヤの「ラピッドフリーザー」などで知られる。
②は①よりも凍結に時間がかかるものの、大手SMに並ぶような大量産型冷凍食品の凍結に向く。
②と③は真空せずに凍結できるため、真空パックすると潰れてしまうようなホールケーキなど真空パックに向かない食品に向き、特に③は21年10月に発売されたデイブレイク「アートロックフリーザー」がある。
店や企業だけの業務用だけなく、冷凍技術の革新は家庭用でも起こっている。22年11月には家庭用冷凍機も登場。氷点下でも凍らない液体パックの間に食品を挟んで凍らせる凍結スペースと冷凍スペースが一体型になった家電で、2台目の冷凍ストッカー需要を狙う。
一方、今後の冷凍食品において注目したいのが「スイーツ」だと話す脇本氏。というのも、ラボでは「コトフ マルシェ」で販売する総菜作りに加え、他社のOEMも請け負っているが、その注文のほとんどがスイーツの製造だという。商品はチーズケーキを筆頭に、アップルパイやシフォンケーキ、タルトなどが多い。
この背景に対し脇本氏は「昔は不味いというイメージがあった冷凍食品のイメージがなくなり、若い世代が冷凍食品を購入する機会が増えたからではないか」と分析。この他、同社と付き合いの深い冷凍食品の小売店ではたこ焼き、お好み焼き、キンパ、ピザが売れているといい、「今後の冷凍食品のキーワードは常食(常備する一品)とスイーツ」と話す。
「冷凍技術を使い、多くの国産素材が世の中に出回れば、国内が活性する要因に。ネット上でも幅広い冷凍商品を提案するなど、まだまだ開発の余地がある。ネットとリアルで新しいビジネスを作り、それが単なる販売だけでなく生産地の支援や市場の活性になれば」(脇本氏)と話す。
今後、「コトフ マルシェ」では、スムージーを販売したり、現在売れ筋の冷凍フルーツの種類を拡大したり、ニーズのある魚介類の煮物や干物を販売したいと話す。「ラボ」ではシェフが監修したコース料理のデリバリーや一般家庭向けのミールキットの販売などを考えているという。