小売業を取り巻く環境は常に変化している。コンビニエンスストアや食品スーパーのオーバーストア化が叫ばれ、単に出店数を増やすだけでは成長は難しく、既存店の収益性向上の重要性が高まっている。また、ECの利用率が高まるなか、店舗が物流拠点や商品の受け取り拠点に活用されるなど、リアル店舗の役割も変化している。コロナ禍はあらゆる業界でデジタルトランスフォーメーション(DX)を加速させ、さまざまな取り組みがみられるようになった。小売業もその例外ではなく、DX推進は各社の喫緊の課題となっている。本書は、小売業がDXを進めるうえで重要となるノウハウを解説したビジネス書である。
本書は10章構成で、小売業がDXに取り組むべき理由やデータ活用のポイント、DX推進に成功した企業の事例、DX推進のための組織改革など、DXを成功させるために重要となるテーマを解説している。
9章「小売のDXお手本企業から学ぶ」では、オーダーメイドのビジネスウエアを展開するD2C企業であるFABRIC TOKYO(東京都/森雄一郎代表取締役)の取り組みを紹介している。同社は従来のアパレル企業とは異なり、採寸やライフスタイルのヒアリングを行う場所として店舗を構えている点に独自性を持つ。FABRIC TOKYOはD2Cブランドとして、デジタル上でマーケティングを実施し、販売まで完結するという戦略を採りながら、店舗は顧客のデータ収集のために構えるという考えであるため、広い売場や大量の商品は必要なく、店舗の出店費用も安く抑えることができる。また、収集したデータは顧客の不安や悩みを解消するために役立てられ、それがリピート率の向上にもつながっている。FABRIC TOKYOは顧客の満足度向上のために、デジタルと従来の顧客接点の場である店舗をうまく融合させることで、成長を続けている。
本書には、小売業がDXを推進するうえで押さえておきたいポイントやノウハウが多く紹介されている。小売業の従事者がDXに取り組むうえで、多くのヒントを与えてくれるはずだ。