追悼 布施孝之キリンビール社長(4)11年ぶりにシェア首位を奪還した“集中政策”
11年ぶりにシェア首位を奪還
2018年3月からは、業務用として全国の飲食店で展開をはじめた「Tap Marché(タップ・マルシェ)」をスタートする。1台で4種類のビールの提供が可能な小型のディスペンサーを設置することで、キリンだけでなく12ブルワリー28銘柄(当時)の多様なクラフトビールを楽しめる仕掛けだ。「Marché(市場)」のように、個性豊かで多様なクラフトビールと多くのお客が出会い、気軽に楽しめる「場」を提供し、新たなビール文化の創造を目指した。
また、業務資本提携していた星野リゾート創業者の星野佳路氏が設立した、「よなよなエール」「インドの青鬼」「水曜日のネコ」「東京ブラック」などの商品を展開するヤッホーブルーイング(長野県/井手直行社長)との関係強化を図った。渋谷区代官山には、クラフトビールブランド「SPRING VALLEY BREWERY」のオールデイダイニング「SPRING VALLEY BREWERY TOKYO(スプリングバレーブルワリー東京)」を開業させた。さらには、元AP通信のスティーブ・ヒンディ氏が創業したブルックリンブルワリーに資本を注入した。
布施さんは、「経営者としての軸を形成してくれるから、逆境や苦難に直面することは大事だ」と話していた。「どんな試練も自分の考え方次第でどうにでもなる。見方を変えればチャンスになるんだ」。だから、リスクを取って仕事に挑んだ。
そんな布施さんの万策は奏功した。2020年、キリンビールは11年ぶりにシェア首位を奪還したのだ。
2021年9月1日、布施さんは急逝したのはそんな折だった。残念極まりないことではあるが、布施さんが育て上げた人材(マインド)と商品(ブランド)は、布施さん亡き後も残る。