追悼 布施孝之キリンビール社長(4)11年ぶりにシェア首位を奪還した“集中政策”
「経営とは人を通して事をなすこと」
布施さんのもうひとつの経営軸は、社会・業界・お客さまの課題を解決することを商機に転換していくというものだ。マイケル・ポーターの「企業と社会の共通価値創造」(CSV:クリエイティング・シェアド・バリュー)経営を実践し、深化させるように努めた。「お客さまのことを一番考える会社」→「世のため人のためになること」→「儲けること」と考え、小倉昌男氏の『経営学』に登場した「サービスが先、利益は後」を心がけた。
その結果、2018年は増収増益、2019年も増収増益を達成した。「正しい戦略」×「従業員のマインド向上」=好循環の連鎖。大阪支店長時代に成功した布施さんの勝利の方程式は、巨大な組織でも見事に機能した。その根本には「経営とは人を通して事をなすこと」という考えがあった。
そして、布施さんが新たな市場を創出しようと力を入れたのがクラフトビールである。ビール業界全体の1%に過ぎないクラフトビール市場の活性化を目指した。キリンビールのことのみならず、ビール業界全体に元気を呼び戻したかったからだ。
「ビール市場が縮小したのは、若者離れとか高齢化とか、世間が言うようなことだけではないんじゃないか。メーカー側にも大いに問題があると思う。新ジャンルや発泡酒の開発ばかりに力を入れ、儲からない構造にしてしまったからね」。その裏には、そんな反省があった。