追悼 布施孝之キリンビール社長(4)11年ぶりにシェア首位を奪還した“集中政策”
すでに見てきたように、布施さんの戦い方の特徴は“集中政策”にある。キリンビールでも同様の打ち手を施した。従来、約20のブランドすべてに投資をしてきたが、その結果主力ブランドへの投資額が他社に比べて60~70%の金額になっていたことを問題視。戦略的な7ブランドへの集中投資に変えた。
数々のブランドを確立
具体的には、「『一番搾り』を日本のビールの本流にしよう!」と旗幟を鮮明にした。また、新しいブランド育成にも力を注いだ。ブランドを持つことの重要性を説き、競争優位の源泉をブランドに求めた。ブランドは資産であり、10年後20年後の社員にそれを残すことを全社のマインドとして統一した。
結果は残せた。たとえば、「麦の本来のうまみ」と飲みやすく飲み飽きないことを訴求した「一番絞り」は、2019年に過去最大の出荷量を記録した。さらには、「新ジャンル(=第3のビール)にキリンのマークを付ける」ことに賛否両論が噴出した「本麒麟」の発売に踏み切り、大ヒット商品に育て上げた。RTD(Ready to drink)市場では「氷結」「キリン・ザ・ストロング」「本搾り」の3本柱で高いシェアを堅持する。
その他、工場から直接家庭に生ビールやクラフトビールを配送して、専用のビールサーバーで楽しんもらう「KIRIN Home Tap」や、「一番搾り」ブランドから国内で初めてビールカテゴリーで糖質ゼロを実現した商品「キリン一番搾り 糖質ゼロ」発売するなど、新サービス、新機能を提供することで市場創造の種まきにも専心した。