DXを実現するためにトライアルが実施した組織体制の変革とは

永田 洋幸 (Retail AI 代表取締役社長)
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「ゾーンマネジメント」を基盤とした組織運営

  スマートショッピングカートやAIカメラなどのソリューション開発を内製すると決断した際は、既存事業と新規事業の領域を同時に成り立たせる組織マネジメントを行うために、ジェフリー・ムーア著「ゾーンマネジメント」を参考にしました。何冊も参考になりそうな書籍を読み、この本が最も私たちが求める答えに近かったのです。

 本書ではスタートアップ企業と比較して、既存企業が新規事業でうまく成長を維持できない点について、下記の通り指摘しています。

①破壊的変化が起きている市場では、スタートアップ企業の業績が既存企業を上回ることが多い。スタートアップ企業には利害衝突がないためである。

②一方で、既存企業では自社の業績維持に傾注してしまい、ステークホルダーの意思などの圧力がある。さまざまな力の板挟みになり、既存企業の取り組みは優先順位などの欠如から上手く進展せず、業績を悪化させてしまう。

③「破壊的イノベーション」と「持続的イノベーション」を分離し、前者を新規ビジネスとその運営にフォーカスさせ、後者を既存ビジネスの拡張と改良に集中させなければならない。

④事業は「パフォーマンス・ゾーン」「プロダクティビティ・ゾーン」「トランスフォーメーション・ゾーン」「インキュベーション・ゾーン」という4つの領域に分解することができる。領域を明確に分けて、各事業に対して別々のマネジメントを実行する必要がある。

「ゾーンマネジメント」の四象限
「ゾーンマネジメント」の四象限

 新たにIoT/AIソリューション開発を内製で行うにあたり、既存の小売事業で売上数千億円の規模になっていることから、同じ組織もしくは同じマネジメント手法でグループ全体を経営していくことが難しいことは明白でした。

 私たちはゾーンマネジメントの手法をもとに、「インキュベーション・ゾーン」としてIoT/AIソリューション開発を行う組織であるRetail AIを新設し、「パフォーマンス・ゾーン」「プロダクティビティ・ゾーン」において既存事業のリアル店舗の運営をトライアルカンパニーが担うという体制を整えたのです。

 

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記事執筆者

永田 洋幸 / Retail AI 代表取締役社長

1982年福岡生まれ。米コロラド州立大学を経て、2009年中国・北京にてリテール企業向けコンサルティング会社、2011年米シリコンバレーにてビッグデータ分析会社を起業。2015年にトライアルホールディングスのコーポレートベンチャーに従事し、シード投資や経営支援を実施。2017年より国立大学法人九州大学工学部非常勤講師。2018年に株式会社Retail AIを設立し、現職就任。2020年よりトライアルホールディングス役員を兼任。

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