香川県に本社を置き、四国4県に食品スーパー(SM)141店舗を展開するマルナカ(中山明憲社長)。同社は2011年11月にイオン(千葉県/岡田元也社長)の子会社となる道を選んだ。現在は、イオングループの物流やIT、情報システムなどのインフラを生かしながら、四国最大のSMチェーンとして規模拡大を続けている。藤本会長に成長戦略を聞いた。
セブン-イレブンなど四国外の小売業が続々進出
──2011年11月にイオングループ入りしてから3年が経ちますが、経営環境に変化はありましたか。
藤本 昭(ふじもと・あきら)
1951年生まれ。1974年、香川大学農学部卒業。同年、ジャスコ(現:イオン)入社。2002年、フードサプライジャスコ代表取締役社長。04年、イオン取締役。06年マックスバリュ西日本代表取締役社長、11年5月同代表取締役会長。11年11月マルナカ代表取締役会長、山陽マルナカ取締役に就任。
藤本 非常に厳しいのが現状です。苦戦している最大の理由は、近年、四国の外から進出してくる小売業が増えており、競争が厳しくなっているからです。
たとえば、2013年にコンビニエンスストア(CVS)最大手のセブン-イレブン・ジャパン(東京都/井阪隆一(いさか・りゅういち)社長:以下、セブン-イレブン)さんが香川県と徳島県に出店しました。14年には愛媛県にも進出しています。セブン-イレブンは交通量の多い好立地に店舗を構え、広い駐車スペースも確保しているため、近隣にある当社の店舗は大きな影響を受けています。
食品スーパー(SM)のハローズ(岡山県/佐藤利行社長)さんは24時間営業の店舗を増やしています。加えて、コスモス薬品(福岡県/宇野正晃社長)さんやダイレックス(佐賀県/貞方宏司社長)さん、大黒天物産(岡山県/大賀昭司社長)さん、PLANT(福井県/三ッ田勝規社長)さんなど、低価格を武器にするディスカウンターも店舗網を拡大しています。
──競争が厳しくなったことで、どのような影響がでていますか。
藤本 低価格を強く打ち出すドラッグストアがわれわれの店舗の近くに出店するケースも増えており、価格競争が加熱しています。こうした店舗では、商品の価格を引き下げて対抗しますが、それでも苦戦しています。とくに冷凍食品や加工食品、日用品など、正面から競合するカテゴリーの売上が落ち込む店舗が目立っています。
14年4月の消費税増税後、消費者の節約志向がいっそう強くなったと感じています。増税後にイオングループは、外税の本体価格を中心に表示しましたが、増税分を反映しない総額表示を継続した企業もあった。その結果、増税した分だけわれわれのほうが高いという印象を消費者に与えてしまいました。そのため、安さを重視する消費者の来店が減ってしまったと感じています。
セブン-イレブンさんの店舗数増加やハローズさんの24時間営業の影響、そしてドラッグストアやディスカウンターの価格攻勢がボディーブローのように売上高の減少として表れていたところに、消費税増税が追い打ちをかけたのです。
──本州や九州の小売業が四国に出店するのは、なぜでしょうか。
藤本 四国4県の総人口は減少傾向にあり、400万人を下回るのでそれほど魅力のあるマーケットとはいえません。四国では当社をはじめとして、キョーエイ(徳島県/埴渕一夫社長)さん、フジ(愛媛県/尾﨑英雄(おざき・ひでお)社長)さん、サニーマート(高知県/中村彰宏社長)さん、サンシャインチェーン本部(高知県/川崎博道社長)さんなど地場の小売業が長い間、競い合ってきました。四国外の小売業が進出してくるのは、地場企業が相手ならば競争に打ち勝ち、シェアを奪取できる目算があると考えているからでしょう。
鮮度と品質の高さを強く打ち出す
──競争がますます激化していくなかで、どのような手を打ちますか。
藤本 14年度は「お客さまの期待を超えた『商品・売場改革』を実現し、お客さまの信頼に応えよう」というスローガンを掲げ、商品政策(MD)と売場づくりを見直しているところです。
まず食品は、当社の武器である農産部門で鮮度の高さの訴求を強めています。当社は全国の産地と直接取引している青果、地域の卸売市場を通じて仕入れる青果、生産者直送の青果を取り扱っています。全国と地場の両方と綿密な関係を築き、鮮度の高い青果を売場に揃えられることが当社の強みです。このパイプをより太くすることで、商品のさらなる強化をめざします。
たとえば、販売数量と在庫量の管理を緻密に行い、鮮度の高いうちに商品を売り切るように努めています。当社の店長の約8割は農産部門の出身です。店長と農産のチーフが協力して売場を維持することで、いつ来店しても鮮度の高い青果が並ぶようにしています。
また、価格の打ち出しも強めています。購買頻度の高い「ベーシック商品」については、地域最安値をめざします。大根やレタスや白菜、キュウリなどはつねに価格訴求しています。そして競争の厳しい店舗では、競合店に負けない価格で販売するように個店対応もしています。鮮度の高さと低価格を両立させることで、お客さまの支持を獲得できると考えています。
水産部門と畜産部門では、地場商品を強化しています。香川県産の「オリーブハマチ」は丸物から切り身、サク、刺身までお客さまの用途に合わせてSKUを増やしています。畜産は地元で人気の高い香川県産「オリーブ牛」を訴求するほか、焼き肉はタンやホルモンなど地域一番の品揃えで、差別化を図っています。
総菜部門では、生鮮3部門が販売する野菜や鮮魚、精肉を素材にしたメニュー開発にチャレンジしています。たとえば、水産部門とともに開発した「あじフライ」や「さんまフライ」はヒット商品となっており、1日100枚以上販売する店舗も少なくありません。
看板商品の開発にも力を入れており、今年5月には香川県産の米「おいでまい」と、素材や味にこだわったおかずを揃えた「ダントツ弁当」(税抜498円)を商品化しました。このほか、総菜子会社の味彩工房(香川県/中山明憲社長)では、高松市内の著名料理人の監修を受けた商品の販売を始めたところです。今後も、競合店では扱っていないような差別化商品を増やしていきます。
──そのほかのカテゴリーはいかがでしょうか。
藤本 当社は日配品や加工食品などの食品とノンフードの品揃えの拡充が課題となっていました。そして、11年のイオングループ入り以降、バイヤーの数を増やして、お客さまのニーズに対応できるワンストップショッピングの実現を図ってきました。
それでもノンフードは見直すべき点がたくさん残っています。なかでもヘルス&ビューティケア(H&BC)の苦戦が続いています。当社は小型SM(売場面積1000平方メートル未満、)SM(同1000~3000平方メートル)、GMS(同3001平方メートル以上)の3パターンの店舗があり、おもにSMとGMSにH&BC売場を展開しています。
現在、ダイエー(東京都/村井正平社長)やイオンリテール(千葉県/梅本和典社長)などグループ会社のH&BC部門から出向してきた社員が、品揃えや売場の改善に着手したところです。H&BCを含めた「商品・売場改革」を成し遂げるには、あと2~3年はかかると見ています。
CVS対策として新業態「マール」を開発
──今後の店舗展開については、どのように考えていますか。
藤本 イオングループ入りして以降、毎年2ケタの出店を考えていたのですが、出店よりもMDや人事制度の調整を優先して進めたために、13年度の出店は1店舗にとどまりました。14年度は大量出店する準備が整い、上期にはスクラップ&ビルド(S&B)、業態転換を含めて5店舗をオープンしました。すでにドミナントを築きつつある香川県ではS&Bと業態転換により、シェアナンバーワンを堅持します。香川県以外の四国3県では2000平方メートル前後のSM出店により店舗網の拡大を図ります。
競争が厳しくなっていることから、14年8月に高松市内の小型SMを転換し、「ma:ru(マール)牟礼店」(売場面積約570平方メートル)をオープンしました。マールのコンセプトは「SM+CVS+カフェ」です。
最大の特徴は、約30席分のイートインコーナーを設け、朝と昼の時間帯に注文を受けてから調理するモーニングやランチ、淹れたてコーヒーを提供することです。生鮮4部門はプロセスセンターと総菜子会社の味彩工房から供給する商品を揃えることで、運営コストを引き下げました。朝6時から夜24時まで営業し、CVSに対抗する小型店舗のモデル構築を進めます。既存店からの業態転換が中心になりますが、長期的には「マール」を100店舗体制にしたいと考えています。
四国のSMの市場規模は約8000億円といわれています。当社はすでに2割近くのシェアがありますが、新規出店と既存店改装により、四国各県でトップシェアをめざします。中長期的にはマルナカ単体でSM市場のシェア3割、イオングループ全体でも四国の食品市場全体の3割のシェアを目標に据えています。
──新規出店と並行して、既存店の活性化に力を入れるSMが増えています。
藤本 12年度以降は年間2ケタの改装を実施してきました。14年度は、おもに生鮮食品と総菜の売場拡大と、セルフの淹れたてコーヒーを提供するイートインコーナーの設置、菓子売場での玩具販売を目的とした改装を進めています。20年以上も活性化していない店舗を中心に、年間で10~20店舗を改装する見込みです。
実は14年度下期も積極的な出店を計画していました。しかし、建築資材の高騰や労働者の確保難のため出店コストが上昇し、投資回収の期間が長くなっているため、計画を見直しました。下期の出店は1店舗にとどめ、「マール」のモデル構築と既存店の活性化に注力することにしています。
イオングループの物流機能を活用
──さて、イオングループのインフラを、どのように活用して、相乗効果を発揮していくつもりですか。
藤本 当社は地場に密着してきた強みがあります。これを生かしつつ、イオンのインフラを活用して効率改善を図れれば、さらに成長できる余地は大きいと考えています。
すでにイオングループのプライベートブランド「トップバリュ」や電子マネー「WAON(ワオン)」、また情報システムを導入しました。売上高全体に占めるワオンの決済比率は6割を超えるまで、お客さまに浸透しています。
現在、とくに力を入れているのは、物流の再構築です。イオングループの物流機能を使い、配送効率の向上、リードタイムの短縮、コスト削減に取り組んでいます。これまではほとんどの商品を香川県の物流センターから愛媛県の店舗へ、徳島県の物流センターから高知県の店舗に運んでいました。
しかし、13年にイオングローバルSCM(千葉県/山口緑社長)に業務を委託して、愛媛県に店舗配送の拠点となるクロスドッキングセンター(XD)を開設。14年には高知県内にもXDを設けました。四国4県に物流拠点を置くことで物流効率は大きく改善されました。
香川県にある既存の物流センターは、新たなXDの稼働によって余力が生まれます。県内の物流センターに中小型店向けの鮮魚・精肉の加工設備を設けマルナカとイオングループの物流を再編成したほか、グロサリーセンターに投資して冷蔵と常温の商品をトータルで管理できるようにしました。また、冷凍食品についても、卸会社の冷凍倉庫を借り受け、生鮮3部門と総菜、日配品、冷凍食品を一括して店舗に納品できる機能を拡張しました。
加えて、イオングローバルSCMが香川県坂出市に約12ヘクタールの広域型物流センター(RDC)を整備中です。イオングループにとっての四国の物流拠点と位置づけられており、15~16年の稼働を見込んでいます。RDCの隣接地にはプロセスセンター(PC)を開設する計画もあります。このRDCは四国に店舗を展開するイオンリテールなどグル―プ企業と共同使用する予定であり、グループ全体に大きなメリットをもたらすと期待しています。
──イオングループの一員として、着々とインフラ活用を進めているのですね。
藤本 整備できることから手をつけている状況です。情報システムや物流などのインフラの導入はある程度の道筋をつけたと考えているのですが、社員の意識や行動を変えるのには時間がかかります。
イオングループ入りする前は、人材教育にほとんど投資していませんでしたので、ゼロから教育制度を組み立てました。責任ある職務につくためのキャリアパスを用意するとともに、店長教育などその職務に応じた人材教育を実施することで、経営の根幹を担う社員育成にも努めています。
社員の自主的な意識改革や行動改革を促すために、イオングループのインフラ活用は十分役に立つと考えています。当社は組織的にチェーンストアを運営するという面では、遅れているかもしれません。チェーンストア企業としての発展は道半ばです。
しかし、話してきたような政策を実施することで、四国の「ベスト・ローカル」なSMに近づけるよう努めていきます。