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将来の成長を見据え、近鉄グループの資産を活用する!=近商ストア 堀田 正樹 社長

大阪府を拠点に、奈良県、京都府で食品スーパー(SM)を展開する近畿日本鉄道(近鉄)グループの近商ストア(堀田正樹社長)。かつて、経営不振に苦しんだ時期もあったが、ここ数年は新店を出しながら、競争力ある店づくりにもチャレンジ、今後の成長に向けて動き出している。堀田社長に成長戦略を聞いた。

2011年、セブン&アイと資本・業務提携

──2013年度上半期の状況はいかがでしたか。

近商ストア代表取締役社長 堀田正樹(ほった・まさき) 1950年(昭和25年)生まれ。74年旧・近鉄百貨店入社。2009年3月近鉄百貨店上席執行役員。09年5月近鉄百貨店代表取締役専務取締役(MD統括本部担任)。11年5月近商ストア代表取締役社長就任。

堀田 上半期は対前年比微減でした。非常に厳しいのが現状です。前年度上半期は好調であったため、その反動という面もありますが、結果として減収減益でした。

 小売業界における各業態の売上の直近4年間の推移を見ると、業態によって明暗がはっきりしています。苦戦しているのは、百貨店や総合スーパー(GMS)、家電量販店といった業態です。それに対して、程度の差はありますが、成長しているのはコンビニエンスストア(CVS)、ドラッグストア(DgS)、衣料専門店などの業態です。SMの伸びはわずかにとどまっています。

──SMが苦戦している要因をどう見ていますか。

堀田 全国各地で、SMが積極的に出店をしており、SM同士が熾烈な戦いを繰り広げています。また、CVSやDgSが品揃えの方針を大きく変えながら、食品マーケットをじわりと侵食してきていることも大きいと思います。

 われわれの商勢圏でも、それは同じです。現在、当社は大阪府、奈良県、京都府で、SM42店舗のほか、ファストフード店・衣料品店などを含め計51店を展開していますが、ここ数年、有力SMや商業施設の出店が増えています。当社のSMについて言えば、競合店が出ると、しばらく10~15%は売上が落ちます。時間が経てば、ある程度は回復しますが、それ以前の水準まで完全に戻すのはやはり難しいのが実情です。CVSやDgSなどの異業態の拡大が、ボディブローのように効いてきているのも間違いありません。

──過去を振り返ると、必ずしも順風満帆ではなく、苦しい時期も経験しています。2011年には、セブン&アイ・ホールディングス(東京都/村田紀敏社長:以下、セブン&アイ)と資本・業務提携しました。

堀田 当社はバブル経済末期の90年代初頭、大型店出店に伴う借入金増による負債がかさみ、徐々に財政状態が悪化しました。そんな中でも、近鉄グループの支援を受けながら、少しずつ業績を回復。09年秋には、約3年半振りに出店を果たし、以来、少しずつ店舗網を広げているところです。

 私が、近鉄百貨店(大阪府/飯田圭児社長)から当社の社長に就任したのは11年5月です。同年11月には、セブン&アイと資本・業務提携を締結しました。当社にとっては、新たなステージを迎えました。提携を生かしながら、近鉄グループの一員として、事業を拡大していきたいと考えています。

イトーヨーカ堂の運営ノウハウを取り込む

──2つの店舗フォーマットでSMを展開しています。

堀田 1つは、レギュラーSMの「スーパーマーケットKINSHO」。もう1つは、高質SMを志向する「食品専門館 ハーベス」です。店舗規模は、両フォーマットとも売場面積1000~1500平方メートルを基準としています。

 「食品専門館 ハーベス」は、20年以上前から出店しており、競合他社ではあまり扱っていないような差別化商品を全体の5~10%取り入れたフォーマットです。店内を落ち着いた雰囲気にして、陳列にも高級感が出るように工夫を凝らしているほか、新たな商品や食べ方の提案にも力を入れています。

──年間の出店数はどれくらいですか。

堀田 ここ数年は、年2店を目標に出店を続けています。10年8月の上本町店(大阪府大阪市)と13年3月の五位堂店(奈良県香芝市)は、「食品専門館 ハーベス」です。中でも、上本町店は高質フォーマットの旗艦店という位置づけです。売場面積は970平方メートルとコンパクトながら、差別化商品をより充実させています。オープン以来、今も来店客数、売上高ともに伸長しており、好調に推移しています。

──レギュラーSMの「スーパーマーケットKINSHO」では、イトーヨーカ堂(東京都/亀井淳社長)のノウハウを取り入れ、新しい手法による店づくりを始めました。

堀田 今年4月にオープンした大和高田店(奈良県大和高田市)では、提携するセブン&アイグループのイトーヨーカ堂の持つ店舗運営ノウハウを取り入れ、新しい店づくりにチャレンジしました。合理的な店舗運営手法を確立しているイトーヨーカ堂の考え方を、当社に定着させるのがねらいです。

 イトーヨーカ堂から6人の社員を大和高田店の店長やチーフに迎えました。当社の社員は、各リーダーの下について、仕事のやり方を学んでいるところです。店舗の運営方法だけでなく、出店前の商圏調査の段階から、イトーヨーカ堂のやり方を実践しました。緻密な調査を繰り返し、地域ニーズを売場に反映させる手法は参考になります。

──イトーヨーカ堂の手法の導入は、ほかの既存店の運営にも好影響を与えそうですね。

堀田 大和高田店以降、それ以外の店でも商品の鮮度管理を徹底して行うようになりました。従来も入念な鮮度管理を行ってきましたが、鮮度確認の頻度を上げるなど、取り組みを強化しています。これからも、イトーヨーカ堂の手法を定着させながら、当社独自のよさを磨いて、競争力ある店づくりをめざしていきたいと考えています。

ネットスーパー 11月から2店でスタート

──今後の成長戦略について、何か構想を持っていますか。

堀田 SM企業を取り巻く環境は年々厳しさを増しています。その中で、新しい取り組みや事業を付加しながら、規模を拡大していきたいと考えています。

 どのSM企業も同じ傾向はあると思いますが、既存店の売上高は年数が経つと徐々に減っていくことが多いものです。当社では、過去10年間で約15%減少しました。開店後30~40年を経過している店は、とくに減少幅が大きい傾向にあります。

 これに対して、今後は既存店の改装を強化することで、売上減少の速度を抑えながら、新店を出すことにより事業全体のボリュームを拡大したいと考えています。業績回復が難しい一部の店舗については、状況を見ながら閉鎖する方針です。これにより、今後10年間で、売上高を今より1割程度伸ばしていきたい。営業利益率2%、当期純利益率1%の水準を維持します。決して派手な経営目標ではありませんが、当社としてはまずは、この最低限目標をクリアすることに力を入れたいと考えています。

──おもに出店や改装よって事業拡大を図っていく考えですね。

堀田 出店や改装が基本になるのは間違いないのですが、それだけでは成長は見込みにくいとも感じています。そこで、新たにスタートさせたのがネットスーパーです。すでに取り組んでいるSM企業は多いのですが、当社も後ればせながらネットスーパー事業に着手します。

 具体的には、11月1日から、奈良県奈良市の高の原店でサービスを開始しています。ネットスーパー向けの設備を新たに設けることはせず、既存の店舗を拠点に周辺エリアに商品を配達します。対象エリアは、奈良市の一部、京都府木津川市・相楽郡精華町の一部です。11月中旬からは、奈良県広陵町の近鉄プラザ真美ヶ丘店でもサービスを開始しています。

──ネットスーパーのサービスは今後、どのように拡大していきますか。

堀田 当初はまずこの2店でスタートし、その後は10店舗まで実施店を増やす予定です。規模が小さい店の周辺エリアは、近くにある大規模店から配達し、商勢圏のすべてをカバーする計画です。

 実店舗の利用者は年々、高齢化が進行しており、ネットスーパーで若い世代の顧客を取り込みたいと考えています。最終的には、店舗売上の1割近くまでボリュームを増やしていくのが目標です。ただ実際には、利益を出すのが難しい事業であることも認識しています。試行錯誤しながら、お客さまに支持されるサービスに育てていくつもりです。

 

近鉄の駅ナカで総菜店や青果店

──近鉄グループの一員という点から、今後の成長戦略について、どのように考えていますか。

堀田 近鉄グループという点では、われわれの事業が大きく変化する可能性もあります。現在、近鉄グループで各社が持つ資産やメリット、ノウハウを共有する計画を進めています。流通事業に関して、近鉄グループ全体での最適化をめざすほか、新規事業を創出しようと検討しています。

──具体的には、どのようなことですか。

堀田 たとえば、これまで近鉄百貨店でしか販売してこなかった商品を、SMの店頭に置くというのも1つです。実際、昨年10月から、近鉄百貨店のギフト商品について、当社の店舗でも取り扱いを始めています。今後、さらにニーズは大きくなるでしょう。百貨店にとっては、ギフトの売上が減るかも知れませんが、近鉄グループとしての販売量が増えることで、全体の最適化を図るという考え方です。

 また、当社にとってみれば、百貨店以外の企業との協業も選択肢の1つになります。たとえば、グループには、近鉄不動産(大阪府/澤田悦郎社長)がありますが、そこが管理するマンションなどとの宅配サービスの取り組みも実現する可能性があります。また実際、ケーブルテレビ事業を手がける近鉄ケーブルネットワーク(奈良県/小西良往社長)と連携し、当社のCMを流してもらい、商品を販売する実験をすでにスタートさせています。

──従来の枠にとらわれない、ビジネスの広がりが期待できそうです。

堀田 新業態も検討しています。これまで、われわれはSM企業として、専門性の高い品揃えや売場づくりに取り組んできました。これからは、専門店を事業展開できないかと検討しています。

 たとえば、従来、SMの一部として運営してきた部門について、総菜店や青果店として独立させるというものです。近鉄と連携すれば「駅ナカ」などの好立地に店舗を構えられる可能性があります。SMの売上高は1店当たり年間10~15億円でしたが、これからは1店あたり1億円ほどの小さな規模で収益を上げる考え方も必要ではないかと思っています。

──実現すれば、独自性のある事業になりますね。

堀田 近鉄グループならではのビジネスを生み出せるのではないかと期待しています。

 ただ、課題もあります。かつて、経営不振に陥っていた頃、新卒の採用を抑制した時期がありました。その結果、現在、社員の年代構成のバランスが悪くなっています。現在は毎年、新卒を採用していますが、今後は社員教育にさらに力を入れ、次代のビジネスの担い手を育成する必要があります。その結果、新しいビジネスを1つずつ実現させ、企業としての競争力を向上させていきたいと考えています。